古典物は今の客に分かりやすいように脚色する。新たな魂が吹き込まれた演目を松之丞は釈台が濡れるほど汗を飛ばし、読む。その姿は客と真剣勝負するアスリートのように見える。
「講談って体力やキレが必要でアスリートの面が多々あるんです。でも、今の体重が91kg。入門時から16kg増え、太っているから汗かいてんじゃねぇかって言われる。高座で啖呵を切る時、息切れするとマズいし、足が痺れる。講談に支障が出ないようにと1時間走っていますが、理想の体重(80kg)に落とさないとヤバイですね」
◆講談はシンプルな話芸ストロングスタイルが一番
松之丞が真打ちになるには、まだ5、6年かかるが、その間にすべきことは見えている。
「真打ち昇進は、できれば歌舞伎座でやりたいですね。師匠が歌舞伎出身なので最高の親孝行になる。ただ、それまでにやるべきことがまだまだあります。講談外の世界からお客様を引っ張ってくる。下の世代が食えるようにする。講談師を増やす。今、講談師は全国に80人しかおらず、下に才能のあるヤツがいないと業界が沈んでしまう。講談の危機を叫び続けていきます」
講談の普及でいえば、今、日本に多くの外国人が訪れている。歌舞伎のように、講談が彼ら向けの会を開いたり、海外公演をする可能性はあるのだろうか。
「今は難しい。インフラが整っていない村で、ロケットを打ち上げる感じですもん。外国人を喜ばせるのは、歌舞伎もそうですが演出なんです。講談の持つ言葉の間、微妙な『てにをは』の違いを喜んでいただく芸が通じないと思うので演出に頼るしかない。それじゃ講談から離れてしまう。講談はシンプルに削いだ究極の話芸で、それが醍醐味。そこは大事にしたいですね」