●肉マイレージカードという囲い込み
客の囲い込みについても、システムを柔軟にアップデートし続けている。創業から半年後の2014年に、ポイントカードシステム「肉マイレージカード」を導入した。金額ではなく「食べたステーキの量(グラム)」を「肉マイレージ」としてポイント換算し、積算量で「スタンダード」「ゴールド」「プラチナ」といったランクが上がる仕組みだ。もちろんランクが上がれば、よりいい優待が受けられるようになる。
翌2015年にはカードと連動したスマートフォン向けのアプリを導入し、利用者同士で肉マイレージ(グラム数)を競うゲーム性を取り入れた。毎月10位以内には数十kgを平らげる猛者がずらりと並ぶ。現在では「肉マイレージカードレス化」として、カードなしでもアプリ内で「肉マイレージ」の積み立て、肉マネーのチャージや利用ができるよう機能を改変。財布内でのカードの場所取り合戦からも自由になった。
●ステーキの仕上げは客自身が行う
もっともこうした仕掛けは元のサービスやモノに力がなければ成立しない。外食産業ではやはり「味」が決め手になる。どんなに安くても味が伴わなければ客は入らない。「いきなり!ステーキ」は、ステーキの仕上げを客自身が行う。ほぼ表面だけ焼かれたレアの肉が熱々の鉄皿で提供され、卓上で客自身が好みの加減に焼き上げて調味を行う。
調味料も、塩コショウから、醤油、わさび、おろしにんにく、からし、ステーキソースなどさまざま用意されている。しかも店内には「鉄皿の再加熱、遠慮なくお申し付けください」と掲出されていて、熱心なファンは肉汁の残った鉄皿を再加熱して、ライスとおろしにんにく、ステーキソースでガーリックライスを作ったりもするという。
ペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は、社内報でこう述べている。
「数十年前(中略)当時珍しかったファミレスは、食文化の大きな分岐点でもありました。(中略)かつて高嶺の花であった憧れの洋食が誰もが安易に食べられるようになり、ライフスタイルに入り込んできて、当たり前になりました。これと似た現象が我が『いきなりステーキ』(原文ママ)の出現により実現されようとしています」
従来、日本人は「ハレ」の食べ物として肉と付き合ってきた。日常食──「ケ」としての肉食文化を創造・定着させようとする「いきなり!ステーキ」が次に繰り出す一手を想像するのも(客が勝手に開発したガーリックライス同様)、またひとつの食の楽しみである。