コピーの難しさを語る仲畑貴志氏
仲畑さんはいいコピーが書けたら机の目立つところに置いて「これを潰してやろう」と、さらに良いコピーを目指すのだという。それを納得するまで延々と続けるという。
『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』──女性の心を鷲掴みにする『ルミネ』のコピーを生み出しているのが、広告会社・博報堂のコピーライターである尾形真理子さんだ。
「広告はドラマや映画と違って、乗った電車の中吊りとか、見ていたドラマの合間のCMとか、“自分の意思”じゃないところで、たまたま出会うもの。しかも、その99%は目にも心にも留まらない。作り手としては残酷だけど、そのなかに受け手の心にハッと飛び込む言葉もある。そういうコピーを思いつく瞬間が醍醐味」
写真家・蜷川実花さんとタッグを組み、毎シーズン話題を呼ぶルミネの広告。『恋は奇跡。愛は意思。』『運命を狂わすほどの恋を、女は忘れられる。』──熱烈なファンの多い、これらのコピーはどのように生み出されているのか。
「“今年の秋はファーがブームだからファーを買おう”のような最短距離のアプローチは避けています。商品を直接的にアピールする手法ではなく、“新しいことがしたくなる”ように受け手の意識をくすぐる。そこで共感が得られれば、自分のことだと“自分事化”してもらえる。こうしてオシャレやファッションが楽しいことだと感じてもらいたい。一見遠回りに見えても、その方が近くまでいけるという気がしています」
尾形さんに「コピーライターの仕事とは?」と尋ねると、「矢印をつくること」と答えてくれた。
「消費者を“無関心”から“何か気になる”という動機付けする作業が、私たちの仕事だと思います」
だが、正解がないのもコピーライターの宿命。どんな表現も嫌いな人はいる。何がヒットするかは、クライアントとの相性や運にも左右される。
「あくまでコピーはクライアントを乗せたタンデムシートみたいなもの。どんなにひとり運転が上手でもダメなんです。いつまでやってもわからないのがコピーの世界で。だからいつも最適解になるよう心がけています。ルミネのコピーだって3割くらいの女性に伝われば御の字かなって思っています」
先が見えない暗闇から抜け出したとき、人々の心に残る名コピーは誕生するのだろう。
※女性セブン2017年10月12日号