◆特徴と弱点
ここに西郷隆盛の、特徴と弱点が現れている。 西郷には、集権的な国家が必要だという認識はあったが、制度の構想がなかった。自分の私心のない真心が、その代わりだった。
韓国が日本を非礼とみなすのは、天皇を戴く独立した国家だと認めろと、韓国に外交関係を迫るからだ。韓国に韓国の思考法があることは、真心ではどうしようもない。西郷の発想がまず、どうしようもなく自己中心的である。
制度のないまま出来た新政府は、行きがかりで権力の座につく人びとと、根拠のないままそこから排除される人びとを、生み出さずにおかない。平時、その垣根は乗り越えられない。戦時は、それが解消する。西郷には、ナショナリズムが定着するため、韓国との戦争が最善に思えた。岩倉具視や大久保利通は、時期尚早だと反対した。この政変で、西郷と共に下野した板垣退助、後藤象二郎、江藤新平、副島種臣らは、不平士族の乱や、自由民権運動の中心となる。
制度のない新政府は「有司専制」(集団指導による専制政治)とならざるをえない。排除される「不平士族」はこれを、権力のための権力、権力の私物化、と非難する。
西郷はこの両方の側に属した。権力を行使する人びとの内情に通じ、しかも、権力のリアリズムを超えた真心が可能であると夢想した。権力を私物化していない証に、自分の命を犠牲にする「至誠」の覚悟を信じた。個人倫理で制度の欠陥を乗り越えようとする、日本右翼の原型である。だから内村鑑三は、西郷を「代表的日本人」とよんだ。