企業の対外的な「顔」といえば社長だが、近年ではその社長に代わってビジネスフォーラム等で新商品の開発や働き方改革など会社の施策をアピールする管理職が増えている。中にはすっかり名の売れた“タレント社員”も少なくないが、果たして一社員が有名になり過ぎることにリスクはないのだろうか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。
* * *
近ごろ、外部主催のセミナーの講演に限らず、雑誌やネット、テレビなどのマスメディアによく登場する社員がいる。プレゼンテーションがうまく、語り口も軽妙かつルックスも良く、聴衆を惹きつける魅力を備えたビジネスタレントと言っていい存在になっている人もいる。
かつては会社の宣伝や取材対応など公の場に、役員ならいざしらず中間管理職などの社員が出ることを避ける雰囲気があった。本人にとっては会社の業務以外で目立つと他の社員の妬みを買い、出世に響くのではという不安がある。会社にとっても意図せぬ失言によって会社の評判を落とすなどリスクを避けたいという気持ちもあった。
今でも銀行など金融業界では派手な服装をしたり、自己主張が強い社員は嫌われる傾向がある。
大手銀行の元人事部長は、「銀行で偉くなるのは間違いなくそつがない人、バランス感覚がある人。極論すれば強烈な意見を持たない人であり、人間関係を重視し、出しゃばらない人、出る杭じゃない人が偉くなっている。銀行の外で派手なパフォーマンスをするタイプはまず出世は無理」と指摘する。
雑誌でよく「わが社のMVP社員」という特集が組まれることがあるが、探し出すのに苦労するという話を編集者から聞いたことがある。
編集者は「広報を通して取材依頼することになるが、ほとんどの会社は『当社にはそんな社員はいません』『特定の部門の社員を選ぶと他の部門から、なぜ彼なのかという中傷が出る』という理由で断ってくる。検討します、ということでいったん社員が決まりかけたが、部門長の反対で取りやめになったことがある」と明かす。