鞍上の力も必須です。脚抜きが良くてラストの直線でスピードに乗ることができればいいのですが、そうじゃない場合だって数多い。そんな時、重い馬を巧みに走らせてくれる。いわば「慣性の法則状態」に持っていけるジョッキーがいい。
馬が走るときの重心に、ジョッキーが自分の体重(つまり斤量)を巧みに合わせる。振り子のように前に振る。本来ならエネルギーがなくなって着地していたはずが、もう半歩だけ延びる。宙を飛んでいるような状態です。
そういう騎乗技術が、トップジョッキーの体には染みついているわけです。
馬券検討の時、目当ての馬の斤量が大きい場合、距離と馬場状態、そして鞍上に注目すべきでしょう。
これは負担重量とは別の話ですが、スタート時にも「慣性の法則」が働きます。電車が動き出す時、乗客の体が進行方向とは逆に引っ張られますね。「止まっている物体はそのまま止まり続けようとする」です。馬が急発進すると、鞍上は取り残されるようになる。体が後方に仰け反るようではいけません。しかし、どのジョッキーもそのことをわかっていて、急発進ではなく滑らかに出ようとします。しかし、スタートでタイミングが合わず、ゲートを出てからダッシュがきかないと、ジョッキーが後方に仰け反るように見えることがあります。
ただスタートが巧くいくかどうかは、ジョッキーだけの責任ではなく、馬を管理する側にとっても永遠の課題です。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。
※週刊ポスト2017年10月27日号