壇蜜:これはもう、蛇革にしか見えませんね。怒濤の衝撃に、先ほどから脳がついていきません。
山下:今回出展する現代の作家は15名。この三井記念美術館で存命中の作家の作品が展示されるのは初の試みですが、「こんな作家がいるとは知らなかった」と他の美術館の学芸員からも問い合わせがくるほど、反響を呼んでいます。
壇蜜:七宝でも、『紫陽花図花瓶』は趣が違いますね。幾重もの花びらに立体感があって、なんて美しい。
山下:こちらは並河靖之という明治の作家で、当時の最高の技術を駆使して表現された七宝です。実は今、世界中で日本の明治工芸が注目されて大ブームとなっているんです。本展では、明治の名匠と現代の作家の超絶技巧の対比も存分に愉しんでいただきたい。
壇蜜:鶏の香炉(『群鶏図香炉』)のまた細密なことといったら。
山下:これも明治の作家、正阿弥勝義ですね。家業として刀の鍔などを造っていたのが、明治維新で廃業の憂き目に遭い、工芸品を造るようになったのです。
壇蜜:時代の流れは世知辛いものですが、転職の必然性にかられ、刀の職人さんがこうした超絶技巧を生んだ。その背景にロマンを感じます。私自身、葬儀屋さんやお菓子の工房で働いていた転職組なだけにグッと心に響いてきます。
現代の作品も、明治の作品も、それぞれに超緻密で本当にリアル。生き物の質感の表現にかける、作家のひたむきな情熱に圧倒されました。そんな作品に美術館の照明が当たると、新たな息吹も感じられて……。ぽっと命が宿る瞬間に幾度も心を揺さぶられました。
●壇蜜(だん・みつ)/1980年生まれ。タレント。2010年芸能界デビュー。グラビア、執筆、芝居、バラエティなど、幅広い分野で活躍。写真集『あなたに祈りを…』、エッセイ集『壇蜜歳時記』など、関連書籍多数。
●山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。笑いを交えた親しみやすい語り口と鋭い視点で日本美術を応援する。
■撮影/太田真三、取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2017年11月3日号