「リタイアしたので社員証もなく、健康保険証で難を逃れた。やれやれと思いつつ、せっかくの夫婦旅行なので奮発してハイグレード車を選んだら、『そちらはカード決済限定です』と冷たく言われました」
定年後、歌舞伎鑑賞を趣味にしているC氏(70)は、舞台を予約する時、クレジットカードがないばかりに毎回苦い思いをしているという。
「『ネットだと確実に良い席を確保できる』と聞いたので試してみようと思いましたが、カード決済のみでした。現金払いは電話予約するしかないが、なかなかつながらず、良い席を取れない。それでもカードはお金を使った気がせず、使い過ぎてしまいそうなので持つ気になりません」
カード研究家の小河俊紀氏は、カードを持っていない人が損する流れは、今後も加速していくという。
「政府は2020年の東京五輪に向けて、カード社会になじんだ外国人が不便を来さないよう、今後10年間でキャッシュレスの決済を現在の18%から40%に引き上げる方針を定めました。カードを使わないと損する場面が今後ますます増えていくでしょう」
その影響は生活の身近なものにも及ぶ。妻に先立たれ、現在一人暮らしのD氏(78)は、最近になってカード払いでなかったために損していたことに気付いたという。
「電気、ガス、水道代などの公共料金はすべて郵便局で現金で払っていました。しかし最近、結婚した娘から、『カード払いにしたら、1%分のポイントが貯まって後々使うことができるのに、いつまで現金で払っているの!』と言われたのです。毎月キッチリ払っているのに、現金払いというだけでなぜ損をしなければいけないのか、まったく腑に落ちません」
実はこのD氏はカードを持っている。持っているが使いたくないという中高年が現金族の大多数なのだ。