少子化、出版不況といわれる時代に今、“絵本”が売れている。その秘密は、絵本を楽しむ大人が増えたことにあるようだ。子供の頃は気づかなかった、でも大人になった今だからわかる絵本の魅力がある。1児の母であり、歌人の俵万智さんが、絵本の思い出を語る。
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3才の頃、母がよく読み聞かせてくれたのは『三びきのやぎのがらがらどん』。オノマトペがとても豊かで、声に出して読むのが楽しかった。丸暗記できるほど、母が繰り返し読んでくれたのを今でも覚えています。
がらがらどんという名前、それぞれのやぎが橋を渡る時の音、最後の“チョキン、パチン、ストン”など、子供の時は言葉の響きがおもしろかった。
私が息子によく読み聞かせたのは、『花さき山』。民話風の言葉遣いで、優しいことをすると花がひとつ咲く。切り絵が印象的で、物語もとても美しい。小さな息子によく読み聞かせた一冊です。いいことをすると、お金持ちになれるとか、お姫様と結婚できるとか、そういう目に見えるご利益ではなく、人知れず花が咲くというところが素晴らしい。息子に、「あなたの花は、咲いていると思う?」と問いかけると、そのたびに話が弾みました。「幼稚園でお友達がこぼした牛乳を拭くのを手伝ったから、白い花が咲いている」とか。
息子とは生後半年頃から、一緒に絵本をめくりながら遊びました。頻度は、ほぼ毎日、毎晩。気をつけたのは、「別に上手に読まなくていいし、忠実に読まなくてもいい」ということ。子供がまだ知らない言葉が出てきたら、かみ砕いたり、飛ばしたりもしましたし、何か話しかけてきたら中断してもよし。同じページをせがんだら、何度でも読みました。よかったのは、本が好きな子供に育ったこと。親子の会話も弾み、スキンシップ同様の、心の安定や繋がりを生んでくれたと思います。
絵本の魅力は、絵が動かないところ。だからこそ、子供は自分の頭の中で絵を動かし、豊かな想像力が育まれると思います。また、肉声のぬくもりもいいですね。わが家では、子供がよく絵本の登場人物に話しかけてきて、私が成り代わって返事をするなどの遊びにも発展しました。テレビやDVDではそのようなことはできません。受け身ではない活用ができるのも、絵本のよさではないでしょうか。
※女性セブン2017年11月16日号