「移植した内臓が体内に定着すれば、メッセージ物質のやり取りや臓器ネットワークの働きは“別人”の臓器を移植した後でもほぼ完全に再構築されると考えられます。別人のものでも、そこから発せられるメッセージ物質は同様のものと考えられる。不思議に感じられるかもしれませんが、それが人体の持つ特別な力なのです」
国立循環器病研究センター・研究所担当理事の寒川賢治氏は、「心臓移植した場合でも、その後、メッセージ物質のANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)は分泌される」という。
では、「人工臓器」を入れた場合、「メッセージ機能」は失われるのか。現在、「人工心臓」など人工臓器の研究が世界的に進んでいる。ただし現在普及しているのは、「補助心臓」と呼ばれる心臓のポンプ機能を助けるもので、心臓全てをそっくり人工物で代替するまでには至っていない。前出の寒川氏が説明する。
「メッセージ物質のANPはほとんどが心房で作られています。あくまで仮定ですが、もし心臓全体を人工のものに入れ替えた場合、血液を全身に送り出すポンプとしての機能は果たせても、ANPを作ることができなくなってしまう。
そうなると尿も作られなくなり、ナトリウムなど様々な電解質が排出されなくなる。そうなると、ANPを投与し続けるか透析をすることになってしまう。そのため心臓などの臓器を人工物で代替することは現代医学では難しいとされています」
※週刊ポスト2017年11月24日号