ビジネス

キリンビール “後追い”で新商品を投入する意味

新商品発表会見。左が山形氏。

 サントリーに続き、「7%」という高アルコールの“第3のビール”を発表したキリンビール。ビール業界が迫られる「消費者のニーズの変化」と「税制改正の波」。それに対応するための動きと見られる。満を持して新商品を送り出すのは、異業種のP&Gから転職してきたマーケティングのプロだ。ジャーナリストの永井隆氏がその狙いと見通しを分析する。

 * * *
 キリンビールは、アルコール度数7%の『キリンのどごしSTRONG(ストロング)』を来年1月23日から発売することを発表した。いわゆる「新ジャンル」とも表現される“第3のビール”に属する。発表に立った山形光晴マーケティング部長は「高アルコールで飲みごたえを実現した」と話す。ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)のアルコール度数は4.5~5.5%が一般的だが、それより高い7%に設定されたのだ。

 同じ7%に設定した第3のビールとしては、サントリーが『頂〈いただき〉』を7月に発売。しかもサントリーは、アルコール度数を7%から8%に上げた『頂』のリニューアル商品を2月6日から発売するとキリンの商品発表の6日前に発表したばかりである。第3のビールの高アルコール領域で、両社が激突していく様相だ。

 店頭価格が第3のビールと重なる缶チューハイでは、高アルコール(7~9%)カテゴリーはずっと伸びてきている。酒類全体の消費が落ち込んでいるにもかかわらず、だ。安くてすぐに酔える高アルコールの発泡性アルコール飲料は数少ない成長分野であり、カテゴリーを超えてコスパ競争が激化していくのは間違いない。

 クラフトビールにノンアルのビールテイスト飲料、トクホコーラと、ここのところ業界で先陣を切って新分野で事業展開してきたキリングループ。今回、“後追い”で商品を投入するのは、それなりの危機感があるためだ。ビール類市場は、今年を含めて13年連続で縮小するのが必至の情勢になっている。さらに、現在は3つに分かれている酒税が2020年から2026年までかけて段階的に一本化され、キリンが強い第3のビールは段階的に増税されていく。

 ビール『一番搾り』では特に家庭用に注力しているキリンだが、得意分野である第3のビールを伸ばす必要に迫られている。こうしたなかキリンは、まずは量を獲得していく行動に出たといえよう。装置産業であるビール会社は、量を確保しなければ収益を得られないのだ。

 第3のビールにおける最大ブランドである『のどごし』。本体の『のどごし』は酒税法上は「その他の醸造酒(発泡性)(1)」(原料に麦芽を使わない、いわゆるマメ系)。これに対し同じ第3のビールでも今回の『のどごしSTRONG』は「リキュール(発泡性)(1)」(麦芽を使う、いわゆるムギ系)。こうした違いを乗り越えて、ブランド資産を活用して高アルコールに打って出た形なのだ。

 もうひとつ、今回の『のどごしSTRONG』には重要な意味がある。マーケ部長の山形氏は2015年にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)から、スカウティングによりキリンビバレッジに転じ今年3月から現職という経歴をもつ。マーケティングのプロフェッショナルである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

事件に巻き込まれた竹内朋香さん(27)の夫が取材に思いを明かした
【独自】「死んだら終わりなんだよ!」「妻が殺される理由なんてない」“両手ナイフ男”に襲われたガールズバー店長・竹内朋香さんの夫が怒りの告白「容疑者と飲んだこともあるよ」
NEWSポストセブン
4月は甲斐拓也(左)を評価していた阿部慎之助監督だが…
《巨人・阿部監督を悩ませる正捕手問題》15億円で獲得した甲斐拓也の出番減少、投手陣は相次いで他の捕手への絶賛 達川光男氏は「甲斐は繊細なんですよね」と現状分析
週刊ポスト
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト