このように文在寅政権は、これまで左派政権下で対北政策を担ってきた「親北派」ばかりを主要ポストに置き、「北朝鮮の理解者」を内外にアピールしている。
だが、ここに陥穽がある。彼らが知っているのは10年前の北朝鮮である、という点だ。
2011年12月に権力を継承して以来、核・ミサイル開発に邁進し、叔父である張成沢氏や実兄の正男氏を処刑・暗殺することさえ躊躇わなかった金正恩委員長を、彼らは本当に理解しているだろうか。
少なくとも、文政権が送る秋波は北朝鮮にまったく届いていない。今年7月、韓国側が提案した南北軍事会談、南北赤十字会談はいずれも北朝鮮側に黙殺されている。北朝鮮にとっての交渉相手は米国でしかないことが明らかだ。
●むとう・まさとし/1948年東京都生まれ。横浜国立大学卒業後、外務省入省。在大韓民国大使館に勤務し、参事官、公使を歴任。アジア局北東アジア課長、在クウェート特命全権大使などを務めた後、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』、『韓国の大誤算』、『韓国人に生まれなくてよかった』(いずれも悟空出版刊)。
※SAPIO2017年11・12月号