夜は母をわが家に連れ帰った。病院からの呼び出しに備えて私はリビングのソファに。母は私の隣にいたいと言って、布団を敷いた。私は横になってもあれこれ用事が浮かび、なかなか眠れなかった。一方、母は意外にも穏やかな寝息を立てている。

「やっぱり認知症なのかな? 今、緊急事態だということを忘れるのかな? そうなら逆にありがたい病気だわ…」

 日曜日に起床してから通算40時間ほどが経過。疲れも眠気も一切感じない自分の体がさすがに不気味に思えてきた。

 そして間もなく病院からの電話。家族全員の到着を待っていたように父は息を引き取った。私には初めての身近な人の死だったが、麻酔がかかったように痛みを感じない。私に母を託すため父が魔法をかけたのだと、ふと思った。

 その日の夜、母は先に布団に入り、寝ているように見えた。私も横になったがまだ眠れない。体の別のところから、「眠らせてくれー」と、悲鳴が聞こえるようだ。

 と、そのとき「オォォォー」と、絶叫が響きわたった。心臓が飛び出すほど驚くと、母だった。寝言が始まった。「あらやだ、あたしさ…」──まるで日常会話のようである。父と話しているのか…。

 母の熟睡もきっと父の魔法のおかげだと思うことにしつつ、私はまだ眠れなかった。

※女性セブン2017年12月14日号

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