4人揃ってのオープニング・トークの後、まず一之輔が得意の『加賀の千代』。甚兵衛さんの可愛さと、それを愛でるご隠居のキャラが一之輔ならでは。逸品だ。
続いて雲助が『幾代餅』。白酒の人情噺クサくない『幾代餅』のルーツは、この軽やかな雲助版にある。
白酒が演じた『長屋の算術』は、大半の観客にとって初めて聴く噺だったに違いない。五代目柳亭燕路が創作し、志ん生が持ちネタとした珍品で、僕は柳家喜多八でしか聴いたことがなかった。長屋の連中のバカさ加減を徹底的にデフォルメした漫画チックな白酒版の可笑しさは悶絶モノ。喜多八のネタを同等のクオリティで継承してくれる演者がいるのは嬉しいことだ。
トリの一朝は『抜け雀』を、古今亭そのままの本寸法で爽やかに聴かせた。個人的に、一朝は今が旬だと思っている。4人が持ち味を発揮した最高の2時間だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2017年12月15日号