こんな“悲劇”もある。今春、他界した磯部敏郎さん(仮名・享年79)は亡くなるまでの数年間、虚血性心筋症と糖尿病、腸閉塞の持病を抱え、入退院を繰り返す日々を送っていた。
そんな磯部さんは昨年末、「次に具合が悪くなっても病院には行かない」と家族に在宅死を宣言した。
「ただ敏郎さんは奥さんや同居する息子さん夫婦と折り合いが悪く、家で満足な介護を受けられないまま、寂しく息を引き取りました。亡くなる少し前、敏郎さんは“在宅死を願ったけど、これじゃ『家庭内孤独死』だ”と寂しそうに話していました」(最後まで親交のあった親族の1人)
また、自分の介護で憔悴する家族の姿を見ることで「迷惑はかけられない。家族のためにやっぱり病院に行く」と言って、自ら在宅死を諦めて病院や施設に移る例もあるという。それでも前出・小笠原医師はこう言う。
「今ではNPOや民間企業などが連携して24時間体制の見守りサービスを提供している自治体も多いので、独り暮らしでも穏やかな在宅死を実現できるケースが増えてきています。
また、在宅死はお金がかかると思われがちですが、公的な医療保険と介護保険を併用すれば、ほぼ保険の範囲内でサービスを受けることも可能です。状況や考え方の違いによって在宅死の難易度は変わりますが、恐れる必要はありません」
在宅死の「理想と現実」のギャップは除々に埋まりつつある。
※週刊ポスト2017年12月22日号