入院先に駆けつけた娘さんが、『いつも優しくて穏やかな母が、どうしてこんな鬼の形相に』とショックを受け、『痛みを取ってあげたい』と懸命に考えた結果です」
苦しいときには素直に「痛い」と表現することが家族の心を動かし、安らかな「在宅死」につながることもあるようだ。小笠原医師は続ける。
「私が勤務医時代、患者の死後、ご遺体を前に泣きじゃくる家族の姿は病院では当たり前の光景でした。写真を見て不謹慎に感じる方がいるかもしれませんが、それほど水野さんの最期は穏やかで幸せそうなものだったのです」
◆家庭内孤独死の悲劇も
だが、在宅死を選択すれば誰もが必ず幸せな最期を迎えられるわけでない。在宅死には向いている人と向いていない人がいるという。在宅医療歴25年の専門医である東郷医院院長の東郷清児医師が話す。
「生活環境や病状によっては在宅死が現実には困難な人がいます。たとえば、同居する家族がいたとしても関係が良好とは言えない場合は慎重に検討したほうがいい。
在宅死を選択したものの、家族ときちんと意思確認のコミュニケーションが取れていなかったため、介護に疲れた家族が途中で本人の意思を無視して病院や施設に入れてしまうケースがあるからです」