すると上松さんは考え込んだ後、こう呟いた。
「在宅での緩和ケアなら焼酎が飲めるのか……」
上松さんが自宅での緩和ケアを受け入れた瞬間だった。ある時、上松さんはこんなことを言って、小笠原医師を驚かせたという。
「先生、痛い時に焼酎をグイッと飲むと治まるんだ」
その後、小笠原医師はモルヒネ投与を中止。上松さんは最期まで焼酎を飲み続け、微笑みながら息を引き取ったという。
「過去に苦しみ、もがいていた上松さんが、ひとりのがん患者さんとして大好きなお酒を飲み、笑顔で過ごしていることを、医師として嬉しく思いました」
自身の生きてきた道にとらわれすぎず、「今を楽しむ」気持ちを持つことも大切なのだ。
「人は生まれる場所は決められませんが、死に場所は自分で決められます。ところ定まれば、こころ定まる。在宅死とは“暮らし”の中で旅立つことです。在宅ホスピス緩和ケアなら“最期までここにいたい”という願いが叶う。だからこそ穏やかに死ねるのです」
※週刊ポスト2017年12月22日号