七輪で炙った丸干し真イカは焼酎ハイボールによく合う
それがいつのまにか、ここは俺の店だ、私の家だという常連客が毎日のようにやってくるようになった。
なんといっても、店にいる主人、夫人(美津子夫人)と3男の勇太さん(2代目。34歳)の仲良し親子の明るさが客を惹きつけるのだ。
「僕が友人に連れられて初めて来たときは、まさか、こんな寂しい場所に飲める所なんてないだろうと半信半疑で腰が引けて。でも店に入ったら、いつのまにか幸せ顔になっていました。
以来、友人を何人も連れて来るんですが、みんな最初は、僕と同じ反応で、結局幸せ顔になって、リピーターになりますね。ご家族と常連さんのやり取り、これがものすごく楽しくて、すぐ打ち解けますよ。家族の一員感覚になるんです」(40代、電機メーカー)
「私は下町・神田で生まれ育った人間なんですがね。昔は、近所の人たちが何かといっては集まっては飲む家がいくらでもありましたよ。ここにはね、そういう懐かしさがあります。身内みたいになれるものだから、うれしくてつい足が向くんです」(50代、印刷業)
「繁華街の居酒屋だと単なる客でしかないでしょ。でもここでは一体感と言うか、店も客も自分と共にあるって感じがするんですよ」(60代、建築業)
と、だれもが、客ではなく大家族気分になって、飲んでいる。
ちなみに、正尚さんには3組の息子夫婦に孫が6人いるそうだ。
そんな大家族の集まる「酒屋のちょい呑み場」には、寒い季節になると粋な演出をしてくれる小道具が登場する。
「元が炭屋ですからね。火鉢や七輪はいくらでもあるんですよ」(正尚さん)
炭屋時代に囲炉裏のあった場所に火鉢が置かれ、その周りをP箱(酒のケース)を重ねただけの角打ち台が囲む。
そこではいつも炭火が熾(おこ)り、鉄瓶がふつふつと湯気を立てていて、大家族を冬の寒さと乾燥から護っている。
そして、その脇には、やはり炭火の熾る七輪が置かれている。
「ここのつまみにはね、とんでもないピリ辛が癖になる柿の種とか、大根の味噌漬けとか、けっこうな珍味が揃っているんですよ。中でも、この丸干し真イカは最高ですよ。みんなこの七輪の炭火で炙って、うまそうに食べてます。
そのときの匂いがまた酒の味を引き立ててくれるんですよ。嫌なことや悩みを不思議と癒してくれる匂いでもあります。もちろんみんなが一緒にいるからってこともありますけどね」(50代、教師)
火鉢と七輪を囲み、珍味の匂いに癒されながら、みんなが飲んでいるのは、焼酎ハイボールだ。
「笠井さん父子の酒の目利きは確かですから、ふたりの薦める酒を素直に飲んでます。この焼酎ハイボールもいけますよ。甘くない点が選ばれたポイントだと思うし、そこが自分としてもお気に入り。この辛口加減が、何ともいえないうまさなんですよ」(50代、会社員)