かつては一門の名を冠した年寄(親方)名跡は、「一門の代表者」というべき親方が継いでおり、多くの関取や有力なタニマチ(後援者)を抱え、名実ともに一門の大黒柱だった。部屋には資金が集まり、将来有望な人材も門を叩く。また、一門内の行事もその部屋を中心に催された。だが、近年になってそうした構造は崩れつつある。
「現役時代の成績が優秀でも、資金がなければ名門の名跡を手に入れられない。また、有力な親方は自分の言うことを聞く者に名跡を継がせ、“院政”を敷きたがる。親方の娘婿として実力より容姿が優先されることもある。その結果、現役時代にパッとしなかった力士が、名門部屋を継ぐような事態も珍しくない」(ベテラン相撲記者)
モンゴル出身力士の増加も影響している。
「外国出身力士(帰化力士含む)は1部屋1人という“外国人枠”が2010年に設けられたことにより、強いモンゴル人力士が各部屋に散らばった。結果、新興の部屋でも番付上位に出世するモンゴル人力士を抱え、従来の『名門部屋には強い力士がいる』という常識が成り立たなくなっている。また、現役時代の成績が目立たない親方の部屋でも、それまでに外国人力士がいなかったため、強い力士を抱えられるようになるという状態が珍しくなくなった」
たとえば横綱・白鵬の師匠は元前頭・竹葉山の宮城野親方。鶴竜の師匠は元関脇・逆鉾の井筒親方である。
一門の名を関する親方でありながら、必ずしも一門を代表する親方ではない──そうした“歪な構図”が浮き彫りになったのが、2012年の理事選での出来事だ。当時の立浪一門から七代目立浪親方(元小結・旭豊)が離脱し、貴乃花親方に票を投じた。「立浪一門から立浪親方が抜ける」という異常事態が現実に起きてしまったのだ(その後、立浪親方は貴乃花一門に入り、立浪一門は伊勢ヶ濱一門に改称された)。
実は初場所後に控える理事選でも、同様の事態が起きる可能性が囁かれている。