チンパンジー、ボノボ(人類がチンパンジーと分岐した後で、チンパンジーから分岐した)、ゴリラなどの類人猿の中には、人間から手話を習い、言いたいことは手話で表現する。
リスニングについては教えたわけでもないのに、自然と身につけ、しかも完璧であるという者たちがいる。潜在的に持っている高度なコミュニケーション能力が、手話という手段を与えられ、発揮されるというわけである。
特に有名なのは、ゴリラのココである。ココは1971年生まれのメスで、世界で初めて手話(英語の手話である、アメスラン)をマスターした類人猿だ。ココは手話でウソをつく。
ココの研究者である、スタンフォード大学のフランシーヌ・パターソンは、あるときココが男性、それも元レスラーに咬みついている場面を目撃した。
「今、何をしたの?」とココに詰め寄ると、
「咬んでは いない」
と手話で答え、
「ココ、あんたウソついたでしょう」
と、繰り返すと、
「また 悪い ココが また 悪い」
と非を認めた。
ココは時には責任転嫁をする。彼女が台所の流し台に腰を下ろしたところ、その体重ゆえか、壊れてしまった。そこでパターソンが壊したのは誰と問うと、
「ケイト そこを だめにした」
と、いっしょにいた人物に罪をなすりつけたのである。
ココは手話でジョークを言い、自分を指して「ひとでなしの 強情っぱり」と自虐的なギャグを飛ばす。 ココのパートナーであり、やはり手話をマスターしたオスのゴリラのマイケルとは罵り合戦までする。
ココがマイケルを「トイレット 野郎」と罵ると、マイケルも負けずに、「いやな においのする かぼちゃの 雌 ゴリラ」と返すのだ(会話については、『ココ、お話ししよう』、F・パターソン、E・リンデン著、都守敦夫訳、どうぶつ社より)。
◆類人猿にはありえない、人間特有の行動とは?
似たような例は、ボノボのオスのカンジである。カンジとはスワヒリ語で「埋もれた宝」を意味し、まさしくその名の通りの活躍ぶりを示している。1980年生まれの彼の場合、手話は使用していない。単語や番号が幾何学的な図形文字として記されているバネル(コンピューターに接続している)をタッチすると、それらが音声として流れるという方法で応答する。1つのパネルだけでなく、いくつか組み合わせることもある。
カンジは、テレビゲーム、パックマンのルールをたちまち覚え、驚くほど巧妙なやり方で点数を稼ぎ、木の枝にマシュマロを突き刺し、火であぶるとか、簡単な料理もできる。芝居についても理解していて、役になりきることを楽しむくらいである。