ちなみに日本が誇る天才チンパンジー、アイ(1976年生まれ、メス)もカンジと同様の図形文字のパネルを使い、人間とコミュニケーションしている。アイについては特に数の理解が素晴らしい。1から9までの数について理解でき、これだけでも十分に素晴らしいのだが、画面にいくつかの数字が現れ、消える。そのあと、数の小さい順にその場所を次々とタッチしていくというスゴ技を見せつける。この能力についてはどんな人間も敵わない。
ココもカンジもアイも、高度なコミュニケーション能力を潜在的に持ちながらも、主に声帯の構造の問題から、複雑な音声を発することができないのである。
このように、複雑な音声からなる「言語」という高度なコミュニケーション手段は、人間だけが持つに至った。なぜ人間では音声言語が必要となり、類人猿では必要とはならなかったのだろう。
私はここで、類人猿にはありえない、人間特有の行動様式を考えたい。それは、夫婦の関係にある男女が、しょっちゅう別行動をとるということである。我々には当たり前のことのように映るが、実は類人猿はもちろんのこと、ほ乳類全体を見渡してみても、こんな奇怪な行動はありえない。夫婦の関係があったなら、四六時中べったりいっしょに過ごすというのがほ乳類の常識なのである。
人間の夫婦が別行動をとっている間に何が起きるのか。
ずばり浮気だ。実のところ、人間以外のほ乳類で夫婦がべったりいっしょにいるのは浮気対策なのである。
そうすると人間では別行動の間に起きた、自分の浮気を隠すとか、言い訳をする、ウソをつく、あるいは浮気したかもしれない相手の行動の怪しさの追及や、話の矛盾点をつく、そして周囲の人間からの情報収集のためにも、複雑な音声言語が必要になったのではないだろうか。
また、こうした浮気を巡る知恵比べを通じて人間にはより高い知能が必要になり、備わってもきたのではないかと私は考えるのである(詳しくは拙著、『浮気人類進化論』、文春文庫参照)。
言語でウソをつくには極めて高い知能が必要。人間が浮気のウソを巡る攻防で知能を高めてきたとしたら、何とも愉快だ。不倫が発覚した後に会見する人々には、ぜひとも唸るほど巧妙で、粋なウソを披露してほしい。それなら私は尊敬し、拍手も送るだろう。
※女性セブン2018年2月1日号