「新日本プロレスは世界でも非常に高水準のプロレスを実践している団体。そこでトップだった中邑は、WWEでもそのままのプロレスをしています。そして、先ほど話した日本人らしさを強調させなかったプロデュース方法に加えて、シンスケ・ナカムラという名前がそのままリングネームになっていることも画期的なんです」(斎藤氏)

 リングネームとは通常、WWEが所有する”商標”だ。ドウェイン・ジョンソンもザ・ロックと名乗ってきたし、多くの日本人は独自の名前を与えられてきた。前出のアスカは日本では華名というリングネームで、プロレスリング・ノアで活躍したKENTAは野茂英雄とマンガ『NARUTO -ナルト』に由来する新しい名前ヒデオ・イタミに改名している。本名のままの”シンスケ・ナカムラ”は、あらかじめ知られた日本的な何かにあやからずとも、商品価値が高いとアメリカでは受け取られているらしい。

「母音と子音の組み合わせが4+4でリズミカルに続く彼の名前は、日本っぽい音感と受け取られているようです。アメリカ人も無理なく発音していますね。アメリカではプロレスは子供からお年寄りまで楽しめるコンテンツです。とくにWWEの場合、1999年にニューヨーク証券取引所に上場してからは、家族で楽しめるコンテンツ、ファミリー・エンターテインメントに方向転換しました」(斎藤氏)

 上場企業になってからのWWEは様々な決断を下しているが、そのうちの一つが、年齢制限システムの「PG」というカテゴリの選択だ。アメリカにおけるPGは、保護者が内容を検討することをすすめる、という意味で、親が承認すれば幼児も鑑賞できる作品だというしるしになっている。『アナと雪の女王』や『スターウォーズ』シリーズなどの日本でもよく知られる大ヒット作品は、このカテゴリにあたる。

 かつてはWWEでもブラ&パンティマッチなどのセクシーさを強調したものや、イスで相手を殴ったり場外乱闘を繰り広げることも珍しくなかった。しかし、PGカテゴリにすると決めて以降、過激だったり昼メロドラマのようと言われたパフォーマンスは、すっかり見られなくなっている。いまやWWEの中継や興行は、家族で安心して楽しめるエンターテインメントとして親しまれている。そして事業内容もプロレス興行だけにとどまらず、放送、商品化、ネット事業など多岐にわたる。現在のWWEは、ウォルト・ディズニーのように世界から注目される総合エンターテインメント企業になりつつある。

「WWEのマクマホン代表みずから自分たちのプロレスを、とくにレッスルマニアを”ザ・グレーテスト・ショー・オン・アース(地上最大のショー)”と呼んで誇っていますが、それも納得の明るく幸せで楽しいお祭りです。もし中邑がそこでWWEチャンピオンに就いたら、これまで日本人レスラーでは誰もなったことがないような世界のスーパースター、世界のセレブリティーになるかもしれないです」(斎藤氏)

 昨年のレッスルマニア直前、米経済誌『フォーブス』で報じられたWWEの高収入レスラーリストによれば、もっとも高給取りなのは1200万ドル(約13億円)を得ているブロック・レスナー、次が800万ドル(約9億円)のジョン・シナ、レッスルマニアで中邑が対戦するA.J.スタイルズは240万ドル(約2億6千万円)。ちなみに、同誌の別記事によればドウェイン・ジョンソンは昨年、6450万ドル(約65億円)の収入を得てハリウッド長者番付1位なった。遠からず、中邑もミリオネア(億万長者)になるだろう。

 高校から始めたレスリングで世界ジュニア選手権の代表に選ばれたこともある中邑は、長い手足をいかしたタックルが得意技で、青山学院大学では主将もつとめた。もともと志望していた通り、大学卒業と同時に新日本プロレスに入団。背は高いがほっそりと少年らしさが残っていた体躯は、徐々にプロレスラーらしく変貌した。新日本プロレスを退団して挑戦したWWEでさらに魅力を増したパフォーマンスは、ディズニーのように世界展開をするWWE、SNSや動画ストリーミングサービスという新しいメディアに後押しをされ、国境や言葉の壁を越えて共有され人気を集めている。新しい形の日本人の世界的スターがいま、誕生したと言えそうだ。

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