原子力工学の専門家で元内閣官房参与、シンクタンク代表、社会論や経営論、人生論でのベストセラーも多い田坂広志氏(66才)。新刊『すべては導かれている 逆境を越え、人生を拓く 五つの覚悟』(小学館)の中で、これまでの80冊を超える著作ではあえて触れてこなかったという数々の「不思議な体験」を明かしている。なぜ、科学者である彼が今、「そのこと」を語ろうと決めたのか聞いた。
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科学の道を歩んできた私にとって、また、多くの読者に支えて頂いてきた私にとって、このようなことを明かすのは、もちろん覚悟が求められます。ただ、私の人生の核になる部分を伏せて思想を語っていくには限界がある、と感じていました。
また、我々の人生においては、深い覚悟を定めると、想像を超える不思議なことが起こるのですが、その真実を伝えることは、逆境の中にいらっしゃる多くの方々の助けになると思い、それは私の使命でもあると考え、本書を上梓しました。
私は、本来、科学的立場から物事を判断し、論理的にものを考える人間でしたが、34年前、その私に、突然、命の期限が告げられました。まだ30代の働き盛りであり、将来への希望に満ちていた私には、医師から「手の施しようのない」病状を説明されても、悪夢としか思えませんでした。
世界が崩れ落ちていくような絶望の中、救いを求めてたどりついた禅寺で、ひとりの禅師に出会いました。そして、その禅師の語った一言が、私の人生観と生き方を根本から変えたのです。
それ以来、不思議なことに、偶然とは思えない出来事が度々起こるようになりました。そして、自分の中に眠っていた才能や可能性が開花しはじめ、運気をも引き寄せるようになったのです。さらに、気がつけば、その病も消えていきました。
これは、科学では説明することができません。ただ、私がたしかに感じるのは、「科学では説明のつかない何か」が存在する、という事実です。そして、その深いまなざしで見つめるならば、あの病という「逆境」は、実は、私自身の「成長の機会」として与えられたと感じるのです。
それが「何から」与えられたのかは、誰にもわかりません。ただ、人生において、いかなる逆境が与えられても、「この逆境は、自分を成長させ、自分を通じて善きことを為すために、大いなる何かが与えたものだ」と思い定めると、不思議なことに、想像を超える出来事が起こり始めるのです。
本書では、実際に私が体験した、未来を予知したかのようなできごとや、シンクロニシティとでも呼ぶべき不思議な偶然、大切な場面で心の奥深くから聞こえてくる声など、さまざまなエピソードを紹介していますが、そうしたエピソードを通じて、私が読者の方々にお伝えしたいのは、人生におけるどのような逆境も、大いなる何かが我々を成長させようとして与えたものであり、そのことを信じ、覚悟を定めるならば、必ず、我々の心の奥深くから不思議な力と叡智が湧き上がってくるという真実です。
逆境を「与えられた機会」として受け止め、静かに正対するとき、私たちはすでに、その逆境を越えているのです。