この男が出所し、韓国に帰った時どんな扱いになるかが今から興味深い。きっと「安重根同志に次ぐ義士!」と崇めたて、その帰還を祝うとともに日本への恨みを叫ぶ者が出ることだろう。
男の母親は日本の刑務所で過酷な扱いを受けているとし、涙を流して窮状を訴え、韓国の刑務所に移すよう要請した。これに対しては、日本を非難する声も韓国のネットでは出ているが「息子を愛国者と勘違いしているのでは? ただのテロ犯だよ」という声もあるという。
911テロもイスラム原理主義者からすれば「聖戦(ジハード)」だが、遺族や米からすれば「同時多発テロ」である。その後のアフガニスタン戦争はタリバン政権からすれば「異教徒による侵略」で、米からすれば「テロ撲滅への正義の戦い」ということになる。
朝鮮総連の件ではなんとか右派が実行犯2人を擁護しようとしているが、それは無理がある。怪我人も死者も出ていないから大したことないという意見まで出ているが、それを言ってしまえば、靖国の爆破でも同様だ。幸いなことに爆発と利用のタイミングがずれており、人的被害は出なかったので大したことはないということになる。
もっと言えば、北朝鮮のミサイルも日本の領土には落ちていないから問題ない、ということになる。無理筋な擁護は右左どちらであろうとも結局自らの論理矛盾を突かれ、相手を利するだけだ。“党派性”に拘泥し過ぎることにロクなことはない。悪いものは悪い、と言わなければならないのだ。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2018年3月16日号