その後、1989年に石井が仮釈放となった際、身元引受人となったのが熊本県玉名市にある「生命山シュバイツァー寺」の古川泰龍住職だった。住職は石井と西の冤罪を訴え、獄中にいた時から2人を支援していた。出所後、石井はシュバイツァー寺に身を寄せ、その後特別養護老人ホームに移り、2008年に亡くなった。91歳。生涯独身だった。
既に鬼籍に入った泰龍住職に代わって証言するのが、息子の古川龍樹代表だ。
「決して、(石井は)穏やかな最期ではありませんでした。西さんの死刑執行後、遺言として『石井君、最後まで戦ってくれ!』と伝えられたこともあり、出所後もすでに亡くなっている西さんの再審を求める活動を父と共に続けました」
恩赦を受けて刑務所を出ても、単純に喜ぶことはできない──そんな複雑な心理が浮かび上がってくる。
制度に詳しい菊田幸一弁護士は2019年4月30日、今上天皇の生前退位における死刑囚の恩赦の可能性についてこう語る。
「難しい問題ではあるが、今回の生前退位は憲政史上初のため、死刑囚も恩赦の対象になる可能性があります。死刑判決が下された事件のなかでは証拠があやふやで、本人も無罪を主張し、再審請求しているケースが少なくない。最終的な判断を下すのは内閣ですが、法務省は検討していると思います」
(文中一部敬称略)
◆文/斎藤充功(ノンフィクション作家)と本誌取材班
●さいとう・みちのり/1941年東京都出身。近現代史や凶悪事件を中心に取材、執筆活動を続ける。『3650 死刑囚小田島鐵男“モンスター”と呼ばれた殺人者との10年間』(ミリオン出版)など著書多数。新著に『恩赦と死刑囚』(洋泉社新書y)がある。
※週刊ポスト2018年3月23・30日号