佐藤優氏(左)と片山杜秀氏 撮影:黒石あみ
片山:事件直後に対応できたのは、不幸中の幸いだったわけですね。それにしても、アルジェリアの事件は、テロが他人事ではなくなった現実を日本人に突き付けました。その空気を、安倍政権は、良くも悪くも政権運営にいかしている。
2013年末の特定秘密保護法制定もそう。成立する過程で、大規模な反対運動が行われましたね。
佐藤:私は、反対派の議論や主張がずれていると感じました。特定秘密保護法はリベラル派の取り締まりではなく、他国に侵略する準備として制定されたものです。つまり特定秘密保護法は治安維持法ではなく、1937年に改正された軍機保護法(注2)と1941年に成立した国防保安法(注3)に近い。専守防衛だけなら特定秘密保護法は必要ありません。でも他国を攻撃する場合は軍事機密や技術的な情報を隠す必要がある。そのための法律だったんです。
【注2/1899年に制定された軍事上の機密を守るための法律。1937年に改定され、適用範囲が広くなった。軍人だけでなく、軍事施設を撮影した一般人も罪に問われた】
【注3/1941年、国家機密、とりわけ政治上の機密の保護を目的として制定された法律。戦時体制の強化を目的とする】
片山:侵略戦争の準備が着々と進んでいるのに、反対派は広い視点で問題を捉えられなかった。自分たちが弾圧されるかもしれないというところで思考が止まってしまっていたのですね。
佐藤:そう思います。ただし、侵略戦争を行うには、思想が必要です。大東亜戦争を正当化した大川周明(注4)のような知性なくして、侵略戦争は起こりえない。
【注4/1886~1957。思想家。満鉄に入社し、軍部に接近。陸軍幹部がクーデターを計画した3月事件、5・15事件に関わった。A級戦犯となったが、精神異常で免訴】