◆背後に、わが国独特の「ご都合主義」
このように女性専用車両は、いまだに人権や正義の問題をクリアできているとは思えない。
ちなみに海外でも、いくつかの国で女性専用車両を導入した例があるが、男性ばかりか女性からも抗議の声があがり、早期に廃止されたそうである。その点、原理原則についての議論を棚上げし、ニーズが大きいから、大半の人が受け入れているからという理由で次々に女性専用車両を導入したわが国の鉄道会社や自治体の姿勢は、いささか「ご都合主義」的に映る。
とはいえ、これだけ普及した女性専用車両を直ちに廃止せよというのは非現実的である。
ただ上記のような問題がクリアされていない以上、間違っても「痴漢の被害を防ぐため」という理由は公然と唱えないほうがよい。また「女性専用」に協力するよう求めても応じない男性に乗客が「降りろ」コールをしたり、駅員が執拗に降車を迫ったりするのは、やはり行き過ぎである。
女湯や女性用トイレに男性が入ってきたのとはわけが違うのだから。「確信犯」であろうと誤って乗車したのだろうと、他の車両に移るよう求めるところまでが限界であり、断られたらあきらめるというのが穏当なやり方ではなかろうか。
当然ながら痴漢は悪質な犯罪であり、それが多発する現状を放置しておくことはではない。女性がより安心して乗車できるようにするためにも、こうした無用なトラブルを引き起こさないためにも、女性専用車両にかわる痴漢被害の防止策をもっと真剣に考えてもらいたい。高度な監視カメラを設置するとか、吊り輪に防犯ブザーを取り付けるとか、方法はいろいろあるはずだ。
繰り返すが、この問題が差別解消の運動や男女共同の推進にとって足かせにならないことを願っている。