ビジネスマンたるもの、常に風向きを読み、アンテナの感度を上げ、自らを客観視しておかねばならない。世の中は変化し続ける。それはビジネスマナーにおいても同様だ。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘する。
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それを若者に教えるのもおっさんの役割ではありますが、いわゆる「ビジネスマナー」には思わぬ落とし穴が潜んでいます。ドヤ顔で「ちゃんと覚えとけ」と注意したら、じつは何の根拠もなく広まった「嘘マナー」で、相手に「あーあ、このおっさん、まんまと信じてるよ」と心の中で軽蔑されるケースは少なくありません。
大人の危機管理というか転ばぬ先の杖というか、とくに気を付けたい3つの「信じていると恥をかくかもしれないビジネスマナー」をご紹介しましょう。
昨今、あらためてネット上で盛り上がっているのが、メールにおける「了解いたしました&承知いたしました問題」です。3月13日に放送されたテレビ番組「この差って何ですか?」(TBS)で、この問題が取り上げられたのがきっかけ。番組の中で「目上の人に『了解しました』を使ってはいけない」という説が語られ、それに対してツイッターなどでいろんな人が「いやいや、それは嘘マナーだから」と批判の声を上げました。
どうやら、10年ほど前からマナー本などで「目上の人に『了解しました』は失礼」という説が語られ始め、それが広まって、いつの間にか「『了解』より『承知』のほうがふさわしい」という“常識”が幅を利かせるようになりました。「了解いたしました」を禁止して「承知いたしました」と書けと指導している会社も少なくないようです。
しかし、この問題に関しては、3、4年前から「それ、信じちゃダメ」という声が渦巻いていました。国語辞書編纂者の飯間浩明さんも、2016年6月にツイッターで〈「了解いたしました」は失礼な言葉ではない〉という説明を投稿。まとめとして〈「了解いたしました」と「いたしました」が入っていれば、敬語としては十分。〉〈自分が好みでない表現は使わなくていい。でも、使っている人に対して腹を立てるのは可哀相。〉と書いています。
漢字が持つもともとの意味として……というもっともらしい解説もありますが、こじつけの域を出ません。「了解を平気で使うヤツはものを知らない」と思い込んでいる人は、すぐに考えをあらためましょう。あなたの知らないところで「了解を否定するヤツは嘘マナーを無邪気に信じているマヌケ野郎」と見られるリスクが、どんどん高まっています。
ただ、自分がメールを出す相手が「信じている側」という可能性もあるのが、なかなか難しいところ。念のために「承知いたしました」を使うのはやむを得ないとしても、ドヤ顔で若者に「『承知いたしました』が正しいんだ」と指導したり、飯間さんが言うように使っている人に腹を立てたりするのは慎みたいものです。
今までさんざん「了解は間違いだ」と指導してきたとしたら、「その説はガセだったみたいだな。申し訳ない」と過ちを認めて謝りましょう。そうすることで、器が大きそうな人間に見せることができます。