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禁断の書『大東亜戦争肯定論』がいま台湾で読まれている背景

「八旗文化」社長の富察氏

 1963年、文芸評論家の林房雄氏が中央公論誌上に衝撃の論考を発表した。タイトルは「大東亜戦争肯定論」(その後、単行本化されて現・中公文庫)。ここで林氏は、先の大戦を100年の尺で捉え直した。起点は明治維新より20年前。米露の艦船の出現にトラウマを抱えた日本は、克服のために明治維新、さらには周辺国と戦争を始め、その終着点が米国との戦争だった。林はそれを「東亜百年戦争」「歴史の定めた運命」と呼ぶ。

 当時の主流は、あの戦争は帝国主義による植民地簒奪戦争だったという考えだ。それだけに左派論壇から大きな反発を招く一方で、敗戦から眼を背けていた日本人に示唆を与えた。同書の中国語版が昨秋、台湾で発売され、話題を呼んでいる。日本統治下にもあった台湾の人々は、禁断の書をどう読むか。ノンフィクションライターの西谷格氏がリポートする。

 * * *
 戦前に日本語教育を受けた世代が健在で、現代は中国共産党の脅威に晒されている台湾人に、「親日感情」を見ることはたやすい。

 だが、日本の対外進出を肯定する声は少ない。先の大戦を侵略戦争とみる歴史観は、欧米諸国と同心円状にある。ではなぜ、『大東亜戦争肯定論』が台湾社会で発表されることになったのか。中国語版を刊行した出版社「八旗文化」を訪ねてみた。

「私自身、この本の内容に100%は同意はできません。しかし、日本の右派がどのような歴史観を持っているかを知ることは、歴史を振り返り思考を深める上で、一つの材料になると思う。

 これまで『日本が一方的に侵略を開始した』とだけ教えられてきましたが、これは歴史を単純化している。台湾では、日本の右派の見解を紹介する本は少なく、言論空間に空白があった。私はその空白を埋めたいと思っています」

 社長兼編集長の富察氏(47歳)は言う。実は同社は、台湾出版界でも、独特の立ち位置にあった。

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