〈お手紙と大切にしているものをわけてくれてありがとう。かわりの桜は、人が歩いたり、車が走ったりするのに危なくない場所に植える予定にしているよ。この道路がいつまでも桜の道であるために、計画的に桜を育てていくよ。
お手紙から街路樹を大切に思ってくれている気持ちが伝わってきて、心が温まりました。まちが今よりももっと元気になるよう大切に使わせてもらうね〉
手紙を張りつけた3か月後の今年1月、桜の木は惜しまれながら伐採された。神社から志方さん、そして小学4年生の男児へ…。桜をめぐる物語は、ここで幕を下ろすかに思われた。
◆心配で心配で何度もビニールハウスに行った
伐採され、廃棄処分になる運命だった桜を救ったのは、冒頭の田口先生だった。
「新聞で一連のやりとりを知って、伐採された枝に接ぎ木をすれば、桜を生き返らせることができるのではと思ったんです」(田口先生)
志方さんはこの提案を喜んで受け入れ、すぐに段ボールに伐採した枝を入れて東京に送った。接ぎ木とは、根がついた若い桜と、古い桜の枝の切断面を合わせて接合させること。桜が成長する3月に行われるのが一般的だ。
「神戸から桜が送られてきたのは、1月でした。すぐに作業にとりかかりましたが、これまで冬に接ぎ木をしたことがない。とくに今年は寒かったから、ビニールハウスには常に暖房をきかせ、授業の合間に何度も様子を見に行きました」(田口先生)
献身の甲斐あって、無事に接ぎ木は成功し、現在、桜の苗はすくすく育っている。
「いちばん背の高い苗で、50センチになります。このままいけば、神戸でまた桜がきれいに咲くでしょう。手紙を書いた男の子が見てくれたとしたら、これほどうれしいことはありません」(田口先生)
多くの人の心を動かし、桜を生き返らせた小4男子。本誌はこの吉報を伝えようと、神戸市内で彼を探し回ったが、見つけることはできなかった。
※女性セブン2018年4月12日号