スポーツ

女子レスリングパワハラ騒動 担当記者が「淡々と書く」理由

建設的な解決策も出てこない(時事通信フォト)

 女子レスリングで五輪4連覇を成し遂げ国民栄誉賞も受賞した伊調馨に対する、栄和人・協会強化本部長によるパワハラ疑惑騒動の解決は年度をまたぐことが確定した。騒動が長引くわりに、建設的な解決を誘うような論調がマスコミからもあまり出てこないのはなぜか。それは、栄氏によるさまざまな言動が積み重ねられた結果、競技担当だった記者ほど、淡々と報じる気持ちにしかなれないからだ。

 スポーツ紙で五輪担当をしていた記者が「一線を越えた出来事」として振り返るのは、リオデジャネイロ五輪前の出来事だ。

「ある記者が、伊調馨さんについての特集記事を書いたんです。その内容は、彼女がレスリングや五輪についてどう考えているのか、何を経験して今の考えに至ったのかなど、五輪四連覇がかかっている選手はどんな人なのかを紹介した内容でした。誰かを批判するようなネガティブな要素は一切ありませんでした。でも、その記事が掲載されたとたん、書いた記者を呼び出して、なぜ伊調を取り上げるのかと詰問したんです。それは30分近く続いたといいます」

 同じ競技を担当している記者どうしは、他社であってもよく顔を合わせるので、情報を共有することが多い。この「事件」もすぐに広まり、栄氏は、気に入らない選手を取り上げるだけで恫喝する指導者、という評判が広がった。

「記者を呼び出して、伊調さんを取り上げることそのものにクレームをつけたというのがあり得ないです。百歩譲って彼女を報道で持ち上げてほしくない正当な理由があったとしても、五輪四連覇がかかっている選手の人となりを紹介しているだけの記事ですよ。なかなか単独取材を受けない人だけど、一度は紹介しておきたいと考えるのは五輪担当なら当たり前です。囲み取材でも平気で伊調さんへの不満を長々と喋っていたし、今のような状況になっても実績ある指導者だからと肩入れするのは危険だと考えています」

 だからといって伊調に肩入れしたくなるのかというと、それもないと一般紙の五輪担当記者は苦笑する。接触する機会がなさすぎて、思い入れのもちようがないからだ。

「もともと取材を積極的に受けるタイプではないと聞いていましたが、拠点を東京に移してからは、レスリング協会が設定した合宿の取材公開日や大会のとき以外は、ほぼ機会がなくなりました。所属会社に取材申請しても反応がないことが多く、本人が拒否しているのか、別の判断が働いていたのかわかりません。ロンドン五輪で五輪三連覇を達成した直後も、JOC関連で義務になっているもの以外はほとんど断っていて。時間がないと聞かされていたのですが、試合会場をのんびり歩きながら『面倒だから。沙保里さんがやってくれてるし』と言っているのが聞こえちゃって。レスリングのこと以外をアドバイスしてくれる人がいないのは気の毒だなと思いましたが、それだけです」

 レスリング関係者の多くは、「うちはマスコミに対してオープンですから」と胸を張って発言する。だが、その「オープン」とは、自分たちに都合がよい宣伝したいことに対してだけ、開けっぴろげだと言えそうだ。

 担当記者、元担当記者の多くは、今回のパワハラ騒動について「粛々と取材して記事にするだけです」と語る。栄氏は6月には休養から復帰予定だというが、その頃には建設的な変化が訪れるだろうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
麻辣湯を中心とした中国発の飲食チェーン『楊國福』で撮影された動画が物議を醸している(HP/Instagramより)
〈まさかスープに入れてないよね、、、〉人気の麻辣湯店『楊國福』で「厨房の床で牛骨叩き割り」動画が拡散、店舗オーナーが語った実情「当日、料理長がいなくて」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
50歳で「アンパンマン」を描き始めたやなせたかし氏(時事通信フォト)
《巨大なアンパンマン経済圏》累計市場規模は約6.6兆円…! スパイダーマンやバットマンより稼ぎ出す背景に「ミュージアム」の存在
NEWSポストセブン
保護者を裏切った森山勇二容疑者
盗撮逮捕教師“リーダー格”森山勇二容疑者在籍の小学校は名古屋市内で有数の「性教育推進校」だった 外部の団体に委託して『思春期セミナー』を開催
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
新宿・歌舞伎町で若者が集う「トー横」
虐待死の事例に「自死」追加で見えてきた“こどもの苛烈な環境” トー横の少女が経験した「父親からの虐待」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
NEWSポストセブン