現在46歳の台湾人が、日本統治時代の台湾で活躍した人々を独特のタッチのイラストで描き注目を集めている。彼が「日本時代」をテーマにした背景には、アイデンティティが定まらぬ現代台湾人の苦悩があった。
「台湾は中国なのか、中華民国なのか。それとも台湾なのか」
馬英九・前政権による対中国融和策への反動からか、これまでアンタッチャブルだった疑問を深く掘り下げようとする台湾の若者が、近年増えてきた。1990年代に出現した日本文化好きの「哈日(ハーリー)族」から発展し、知的好奇心旺盛な若者中心の新「知日派」が出現。日本との関わりを直視したうえで、現代の「台湾人」のルーツを探す新しい動きが始まっているのだ。
今回紹介するイラストを手がけたのは、1972年生まれの呉旭曜(ペンネーム:KCN)さん。台湾を代表する現代アーティストだ。台湾中西部・彰化に生まれた呉さんは、幼少期から日本の漫画を読み、絵を描くことに没頭した。教科書は忘れても作品ノートは忘れないという、典型的な漫画少年だった。
子供の頃の記憶には、必ず祖父母が登場するという。小学校1年生の冬のある日、ご馳走を作る煮炊きの煙が上がっていた家に帰ると、祖母に「今日はお正月なんだよ」と教えられ、祖父と三人で小さなちゃぶ台を囲み楽しく日本式のお正月を過ごしたそうだ。
しかし学校では、日本統治時代を否定する教育が行われていた。日本との断交(1972年)後の台湾では反日教育が盛んに行われ、教師からは日本人の悪口も多く聞かされた。幹部の大半が大陸出身者で占められた国民党の指導によって、学校では日本語はもちろん台湾語を話すことも禁止。台湾の歴史について学ぶ事すら出来ず、縁もゆかりも感じない大陸の「中国史」しか教わらなかった。