そこで、もっと簡単な2つ目の方法。この池から1匹ずつ魚を釣る。釣り上げた魚に標識がついていなければ標識をつけて、池に戻す。そして、釣りを続ける。こうして、キャッチアンドリリースを続けたところ、10回目に初めて標識のついた魚を釣り上げた。このとき、この池には何匹の魚がいると推計されるだろうか。
この問題は、見かけの単純さによらず、かなり奥が深い。10回目に、初めて標識のついた魚を釣り上げたということは、9回目までは標識のついていない魚を釣ったことになる。つまり、この池には、少なくとも9匹の魚がいることになる。ちょうど9匹だとすると、9回目まで毎回違う魚が釣られて、全部の魚に標識がついた状態で10回目の釣りを迎えたということになる。
これは、カプセルトイの自動販売機で9種類のアイテムを9回でコンプリートするようなもので、こういうことが起きる確率は0.1%もない。つまり、9匹という推計では少なすぎるのだ。
一方、仮に、池に1万匹も魚がいたとする。読者から「どんなに大きな池なのか」とツッコミが入るかもしれないが、これはあくまで仮の話である。こう仮定すると、9回目の釣りを終えた段階で、1万匹のうちの9匹にしか標識がついていないことになる。10回目の釣りで、標識のついた魚を釣り上げる可能性はかなり小さいだろう。こういうことが起きる確率を計算してみると、0.1%未満となる。つまり、1万匹という推計では多すぎるのだ。
9匹と1万匹の間に、もっと確率が高くて妥当な推計の数があるはずだ。それを計算してみよう。
池の魚の数をn匹とする。1回目に釣り上げた魚が標識なしの確率は、まだ標識のついた魚がいないので当然1。2回目に釣った魚が標識なしの確率は(1-1/n)。3回目は(1-2/n)。……9回目は(1-8/n)。そして10回目に、標識のついた魚が9匹いる状態で、そのうちの1匹を釣り上げる確率は9/n。
各回の釣りは独立とみられるため、これらを掛け算したものが、「池全体の魚の数をn匹としたときに10回目に初めて標識のついた魚を釣り上げる確率」となる。計算式は、つぎのような感じだ。
1 ×(1-1/n)×(1-2/n)×……×(1-8/n)× 9/n
この計算式のnにいろいろな値を代入してみたときに、計算結果が最大になるのはnがいくらのときか、というのを考えるのである。ただし、これをまともに電卓で計算しようとすると、階乗や累乗が出てきて、手計算では困難を極める。
そこで、最大値を求める計算をしやすくするために、この計算式の対数をとり、さらに微分した計算式を考える。そして、nを9から、1ずつ増やして代入してみる。計算結果がプラスからマイナスに転じる箇所をみつけるのだ。そのnで、元の計算式が増加から減少に転じる、つまり計算結果が最大値をとることになる。
読者の中には、高校生の頃、数学で微分を勉強していて「xがいくつのときに関数f(x)が最大値をとるか」という問題に苦しめられた人(もしくは、いま苦しんでいる高校生)も多いと思うが、アレをやってみるわけだ。