病気を患って手術を受ける場合、患者は医師にすべてを委ねるしかないが、病院側から手術前に「訴えてはいけない」という同意書へのサインを求められた場合、この同意書に効力はあるか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
大病が発見され、手術を受けることに。その際、納得できなかったのは病院側が提示した全身麻酔に関する「万が一、事故が発生しても病院を訴えません」という同意書です。この一文は責任逃れでしかなく、法的な効力を持つものなのですか。また、サインを拒否した場合、手術を受けられなくなりますか。
【回答】
憲法は裁判所に訴える権利(訴権)を保障しているので、一般的な訴権放棄は憲法違反となり、無効ですが、個々の事件や紛争毎には放棄することもできます。不起訴の約束をすると裁判を起こしても却下され、門前払いになります。そのため不起訴の約束は慎重に判断されるべきです。
最高裁は示談書中の「本件に関して訴訟しない」との文言は「加害者が示談による約定を履行したときは、被害者において今後本件に関し異議の申立、訴の提起等は一切しない旨の合意が成立したことを意味する」と解釈。加害者側の示談の約束履行の有無に拘わらず、裁判しないとの合意が成立したとはいえないとしています。
同意書も病院が手術内容を十分説明し、医療水準に従って過失がない手術をすべき医療契約上の債務を果たした場合は、手術の結果が期待外れでも裁判をしないという趣旨の合意と解されると思います。