ライフ

切り裂かれたユニコーンのライブチケットから感じた親の愛

父に破られたコンサートのチケット(イラスト/ico)

「父親になるのは簡単だが、父親たることはなかなか難しい」とは、ドイツの詩人ヴィルヘルム・ブッシュの言葉。それほどに、“父とはこうあるべき”と決めて貫き通すのは大変なのかもしれない。今年は6月17日が父の日。そこで、45才の主婦による父にまつわる涙のエピソードを紹介します。

 * * *
 目の前を、破られたチケットの切れ端がハラハラと舞い落ち、「この不良が!!」という、父の怒号が響き渡ったあの日、私は実家を飛び出しました。それから22年、父とは一度も会いませんでした。

 私の父は公務員で、まじめが服を着て歩いているような人でした。ギャンブルはもちろん、たばこやお酒もやりません。しつけは厳しく、友達と遊ぶことや部活動も禁止…。私は友達ができず、学校で孤立していました。

 そんな私を癒し、励ましてくれたのが、ロックバンド・ユニコーンの曲でした。私は3年かけてお年玉を貯め、高校3年生の卒業記念に、初めてコンサートのチケットをとりました。

 しかし、私の郵便物を父が確認していたのです。チケットは私の手に入る前に、切り裂かれてしまいました。

 家を出た私は住み込みのアルバイトを見つけ、そこで働きながら奨学金で大学へ通いました。どん底の貧しさでしたが、父の束縛を離れた日々は、幸せ以外のなにものでもありませんでした。

 その後就職し、結婚。子供にも恵まれ、忙しい40代を過ごしていた頃、母から突然「どうしても」と連絡があり、帰省することに。

 70才の父は病床にいました。数年前から食道がんを患い、今日か明日かの命だというのです。父は一瞬、目を開けて私を見ましたが、そのまま息を引き取りました。

 何も知らされずに帰省した私は頭がついていけず、泣き崩れる母を前に、冷静に葬儀の手配を進めました。涙などもちろん出ませんし、気持ちは白けていました。

 父は納棺してほしいものをまとめていたので、それを整理していると、その中に、小さな封筒がありました。中を見ると、ビリビリに破られたユニコーンのチケットが…。

 ようやく涙がこみ上げてきました。

 私も親ですが、親の愛とはなんでしょう。生きているうちに伝わらなければ、お互いに後悔しか残りません。私は、家族の誰にも悔いを残さないよう、日々を正直に生きていこうと思っています。

※女性セブン2018年6月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
【伊東市・田久保市長が学歴詐称疑惑に “抗戦のかまえ” 】〈お遊びで卒業証書を作ってやった〉新たな告発を受け「除籍に関する事項を正式に調べる」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
《不動産投資会社レーサム元会長・注目の裁判始まる》違法薬物使用は「大きなストレスで…」と反省も女性に対する不同意性交致傷容疑は「やっていない」
NEWSポストセブン
女優・福田沙紀さんにデビューから現在のワークスタイルについてインタビュー
《いじめっ子役演じてブログに“私”を責める書き込み》女優・福田沙紀が明かしたトラウマ、誹謗中傷に強がった過去も「16歳の私は受け止められなかった」
NEWSポストセブン
告示日前、安野貴博氏(左)と峰島侑也氏(右)が新宿駅前で実施した街頭演説(2025年6月写真撮影:小川裕夫)
《たった一言で会場の空気を一変》「チームみらい」の躍進を支えた安野貴博氏の妻 演説会では会場後方から急にマイクを握り「チームみらいの欠点は…」
NEWSポストセブン
中国の人気芸能人、張芸洋被告の死刑が執行された(weibo/baidu)
《中国の人気芸能人(34)の死刑が執行されていた》16歳の恋人を殺害…7か月後に死刑が判明するも出演映画が公開されていた 「ダブルスタンダードでは?」の声も
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン