料理人とお客がカウンターを挟んで向かい合うような割烹料理店では、シャッシャッという鱧の骨切りの音をわざと聞かせる。それを聞いて「夏が来たなあ」としみじみする京都人も少なからずいるそうだ。7月1日から始まる京都「祗園祭」は別名「鱧祭」。このときに旬の鱧を食べるのが京都人のこだわりである。
このような伝統への思い入れの強さゆえ、京都の料理人の中には「鱧への思い入れが強くて伝統的な料理を愛するお客さんが多く、新しい料理に挑戦する余地がないです」と語る人がいる。
昨今は東京でも、築地市場の強みを活かして良質の鱧が出回る。しかも東京の料理人は、鱧という素材を新鮮にとらえ、歴史ある本場と違う料理を出す店も。それもまた楽しい。伝統的な鱧料理を求めて京都に出かけるのもよし、また東京ならではの個性的なおいしさを味わうもよし。鱧の美味は懐が深い。
どうです? 梅雨の時期も少し楽しくなったのでは。
※週刊ポスト2018年6月29日号