国内

南極昭和基地の生活模様、隊員同士の衝突や気分転換術

元南極調理人・渡貫淳子さんが南極生活を振り返る

 オバ記者こと野原広子が南極調理隊員30人の胃袋をつかんできた“南極の母ちゃん”渡貫淳子さん(44才)を直撃! 渡貫さんは、2015年に第57次南極地域観測隊の調理隊員となり2017年春に帰国。その後、南極料理レシピを公開したり、料理教室の講師をしたり、企業の商品開発をするなど、幅広く活躍中だ。知られざる南極隊の暮らしとは?

 * * *
「昭和の権力者は誰か?」と隊員同士でお酒を飲んだ席で話題になったときの結論は、1番は、暖房を握っているから燃料隊員。で、2番目は調理隊員。ほかの隊員からしてみると、食べるものは調理隊員が用意したものしかないんですから。“権力者”かどうかはわからないけど、8か月目に生鮮野菜が底をついたときは、“隊のお母ちゃん”としてすごく切なかった。

 とんカツや豚のしょうが焼きにキャベツの千切りがつけられないんです。シャキシャキ歯ごたえのある食べ物に飢えるとは想像以上でした。

 まあ、この“お母ちゃん”も怪しいものでね。1年後、次の隊がすいかを差し入れてくれたときは、切り分けながら真っ先に、どんどん自分の口にポンポンと入れてましたけどね(笑い)。

 ある日、ポタリポタリと音がする。何かと思って音のするところへ行くと、雨もり。春が来て氷が溶け出したんです。そうすると、生き物の気配を感じ始める。それまで長いこと、隊員30人以外の動物を見ていないから、朝方、ペンギンの鳴き声がして、飛び出していきたいほど興奮しました。

 そのうち、しょっちゅう昭和基地にペンギンの群れがやってくるようになり、大きなコウテイペンギンが現れたときは、隊員がぐるりと囲んで、まるでアイドルの撮影会。

 カメラは、放っておくと寒さでバッテリーが切れちゃうから、外に出るときは鳥が卵を抱くように、みんな体温でずっと温めているんです。

 南極で暮らす上でもっとも大切なのは、メンタルを保つこと。だから、みんな全力で喜びを見つけました。たとえば、氷山での流しそうめん。傾斜のよさそうな氷山にうまく穴を掘って、そこに麺とつゆと天ぷらを持って出かけていく。

 かと思えば、女性隊員5人でAKB48の『ヘビーローテーション』を振りつけつきで歌い、握手会をしたこともありました。こうして気分転換したり、場を和まそうとしても、けんかになるときはなる。

 私も1度だけ、人前で言われのないことを言われ、長々と言い合いをしたことがある。しまいに私が怒って席を立ったら、翌朝、相手から「昨日はすみませんでした」と謝ってくれました。

 そんなこんなで、どたん場までドタバタと雑務に追われて、感傷にひたる余裕はなかったけど、日本に帰るために飛び立ったヘリから昭和基地を見下ろしたら、この1年4か月は30人全員で作ったんだなと急に思いがこみ上げてきて…。

 泥にまみれた工事現場のこと、仲間とぶつかったこと…いいことなんか一つも思い出さないのに、その一瞬一瞬が今でも愛しくて愛しくてたまりません。

※女性セブン2018年7月5日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

筒香が独占インタビューに応じ、日本復帰1年目を語った(撮影/藤岡雅樹)
「シーズン中は成績低迷で眠れず、食欲も減った」DeNA筒香嘉智が明かす“26年ぶり日本一”の舞台裏 「嫌われ者になることを恐れない強い組織になった」
NEWSポストセブン
筑波大学・生命環境学群の生物学類に推薦入試で合格したことがわかった悠仁さま(時事通信フォト)
《筑波大キャンパスに早くも異変》悠仁さま推薦合格、学生宿舎の「大規模なリニューアル計画」が進行中
NEWSポストセブン
『世界の果てまでイッテQ!』に「ヴィンテージ武井」として出演していた芸人の武井俊祐さん
《消えた『イッテQ』芸人が告白》「数年間は番組を見られなかった」手越復帰に涙した理由、引退覚悟のオーディションで掴んだ“準レギュラー”
NEWSポストセブン
12月9日に亡くなった小倉智昭さん
【仕事こそ人生でも最後は妻と…】小倉智昭さん、40年以上連れ添った夫婦の“心地よい距離感” 約1年前から別居も“夫婦のしあわせな日々”が再スタートしていた
女性セブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
「激しいプレイを想像するかもしれませんが…」田村瑠奈被告(30)の母親が語る“父娘でのSMプレイ”の全貌【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
元夫の親友と授かり再婚をした古閑美保(時事通信フォト)
女子ゴルフ・古閑美保が“元夫の親友”と授かり再婚 過去の路上ハグで“略奪愛”疑惑浮上するもきっぱり否定、けじめをつけた上で交際に発展
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン