創刊60周年を迎えた『きょうの料理』テキスト版。日本の食文化が劇的に移り変わった激動の60年。第一線で料理の変遷を見つめ続けてきた料理人たちは、今この時代に何を思うのか。1982年に小林カツ代さんに弟子入りし、一番弟子として20年以上助手を務めた料理研究家の本田明子さんが語る。
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本番で玉手箱のように新しいアイディアが次々と浮かぶ小林カツ代先生にとって、自由に発言できて、思った通りに表現できる『きょうの料理』の番組は、大好きな仕事の1つでした。
先生は家庭料理を1つのジャンルに確立させた人。料理は特別なイベントではなく、日々のちょっとしたもの。「朝、昼、晩、1日に点が3回あるだけよ」と、よく言っていました。そして、意外に思うかもしれませんが、「料理は絶対に失敗しちゃいけない」というのがカツ代流の教え。
自分のレシピで料理を作った人が損をしないように、どうしたら失敗なくその日の食事をおいしく作れるか、それを大切に考えていました。おいしくなければ、お腹をすかせた子供たちや家族をガッカリさせてしまうし、その家庭の大切な食材や食費を無駄にしてしまいます。それは絶対にしてはいけないこと、と強く教えられました。
私が初めて先生の料理を作ったのは中学生の時で、10分でできる“失敗しないホワイトソース”でした。バターで玉ねぎを炒めて小麦粉を振ったら、冷たい牛乳を加えてもダマにならず、中学生の私でもおいしくできて、とってもうれしかったんです。
まさに誰でも失敗なく作れるカツ代レシピの真髄がそこにある気がします。
生きている限り、食べるという行為は続いていくもの。そのバトンを今、私たちは受け継いでいるのだと思います。
※女性セブン2018年7月5日号