大前研一氏
だが、現金を授受したら摘発されるリスクが高い。そこで、デベロッパーは役人をマカオやシンガポールに招待し、前もってカジノにお金を渡して役人を勝たせるように話をつけておく。一気に勝つと周囲に怪しまれるため、ディーラーとの“あうんの呼吸”で一進一退の攻防を繰り広げながら一晩かけて数億円を稼がせる、という仕掛けである。
VIPルームの客はホテルの宿泊代がタダになるが、中国人のハイローラーが客室で眠ることはほとんどない。みんなずっとカジノにいる。私はいくつかのカジノでVIPルームを視察したが、ソファで寝ている中国人が少なくなかった。彼らはゲームの合間にわずかな仮眠をとって24時間後には帰っていく。カジノに来る目的が遊戯としてのギャンブルではなく、マネーロンダリングだからである。
マカオがあっという間にラスベガスを抜いて世界一のカジノ都市になり、シンガポールのIRが成功した最大の理由が、そこにある。ラスベガスの場合は、マネーロンダリングが厳しく禁じられているからだ。
しかし、中国の習近平国家主席が「トラ(大きな腐敗)もハエ(小さな腐敗)も一緒に叩く」と反腐敗運動の大号令をかけて不正蓄財資産の調査・取り締まりを強力に推し進め、人民元の持ち出し・持ち込みも2万元(外貨の場合は5000ドル相当額)までに制限されてしまった。このため、マカオとシンガポールでは中国人富裕層(汚職役人)のマネーロンダリング需要が激減し、売り上げが伸びなくなったのである。
※SAPIO2018年7・8月号