公的年金の支給開始年齢の70歳近くへの引き上げが政府内で現実味を帯びつつある。今年4月11日、財務省は厚生年金の支給開始年齢を68歳に引き上げる案を財政制度等審議会に示したのもその一つだ。年金を所管する厚生労働省は2019年の年金財政の検証では65歳支給を維持することになったが、今後はわからない。
仮に年金支給が68~70歳になると、それと連動して法定定年年齢が60歳から65歳に引き上げられる公算が高い。現在、高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用確保義務によって、希望者全員が再雇用制度などで雇わなければならない。定年が65歳になると、雇用確保義務が70歳まで引き上げられる可能性がある。
今年、6月に発表の政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)では「65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けて環境整備を進める」ことが盛り込まれた。政府は着々と布石を打ちつつある。
こうした動きに戦々恐々としている企業は多い。大手食品業の人事部長はこう語る。
「正直言って65歳まで雇用するのも大変です。法律によって本来なら雇いたくない社員も手を挙げれば雇わなくてはならない。いまは給与をかなり下げて契約社員として働いてもらっていますが、同一労働同一賃金によって給与を上げろと言われても人件費を捻出するのは難しいと思います。
今は再雇用社員はそれほど多くありませんが、4~5年後には60歳を迎える社員が毎年数百人単位で増え、さらにその後のバブル期入社組と大量に増えていいきます。しかも今の会社の体力が5年後も続くかわかりません。シュリンクしてくると雇用するのも厳しくなります。ましてや70歳まで雇えというのは想像外の話ですよ」
同社に限らず他の大手企業でも今後、60歳を迎える社員がどんどん増えていく。人事部長は、「増え続ける60歳の圧倒的な数の前に呆然としている人事担当者も多いのではないか」と語る。