ビジネス

国の働き方改革で跳ね返ってくる「50代社員リストラ」の激痛

50代社員はすんなり定年、再雇用とはいかない時代へ

 政府が推進する“働き方改革”、その最重要法案と位置づけていた「働き方改革関連法」が6月29日に国会で可決・成立した。最大の柱は時間外労働の罰則付き上限規制と並ぶ「パートタイム・有期雇用労働法」の制定などによる「同一労働同一賃金」の法制化だ。だが、これによって50代社員に予想外の“激痛”をともなって跳ね返ってくる可能性が出てきた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏がレポートする。

 * * *
 同一労働同一賃金の法制化については、すでに2016年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されている。だが、この中で唯一判断を保留していたのが「定年後の再雇用者の給与を下げることが許されるのか」だった。

 保留したのはなぜか。係争中の最高裁の判決を待って書き込むことになっていたのである。

 今では8割以上の人が60歳定年後に1年契約の有期契約社員として働いている。もちろん公的年金の支給がなく、生計維持のためだ。だが、再雇用後の給与は60歳時点の半額程度に引き下げているのが実態だ。

 ところが、定年後再雇用者のトラック運転手の賃金減額の違法性が争われた「長澤運輸訴訟」の一審判決が賃金減額は不合理だという判決を下した後、人事関係者の間ではこのままでは今の再雇用制度は存続できないと騒然となった。だが、2審判決では、再雇用者の賃金減額は社会的に容認されており、不合理とはいえないとの逆転判決を出した。

 人事関係者はホッと胸をなで下ろしたが、最終ラウンドの最高裁の判決が今年6月1日に下された。

 最高裁判決の結論を先に言えば、定年後再雇用の社員と正社員の間の給与格差の大半については不合理とはいえないとした。しかし、注目すべきは最高裁の判断の基準である。最高裁は正社員と比べて有期の再雇用者は長期間雇用することを予定していないこと、一定期間を過ぎると公的年金が受給できるので正社員とのある程度の給与格差は容認されるとした。

 ではどの程度の格差なら許されるのか。最高裁は原告の3人の運転手の基本給が正社員と比べて、それぞれ約2%、約10%、約12%の差にとどまっていること、またボーナスを含めた年収が正社員の79%であることを挙げている。

 つまり、再雇用者であることを考慮するとしても、基本給が10%前後、年収が20%程度の違いがあるから「セーフ」と言っているのだ。逆に言えば、基本給が3~4割違うとか、年収ベースで4~5割違う場合は「アウト」になる可能性もあるということだ。

 最高裁の判決内容は同一労働同一賃金の法制化の施行(大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月)に合わせて厚生労働大臣告示として出される「同一労働同一賃金ガイドライン」に書き込まれることになる。

 企業によっては再雇用者の給与を上げざるをえなくなるだろう。当然、コストアップにつながる。企業の負担はそれだけでは終わらない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン