「その役はとても小さかったんだけど、渥美さんが相手というだけで嬉しくて飛んでいったんだ。そうしたら演技が目から鱗で。新劇芝居とまるで違うから。
新劇は台本を読んで、あれこれ考えて計算してやる芝居なんだけど、渥美さんとやるとそんなのが土台から崩れる。天才的にその場での芝居が上手い人。芝居じゃなくて、何かリアルなんだ。僕らがやってきたのは舞台だから、広い劇場でも伝わるように大きな声を出して大きく動く。だからリアルじゃないんだ。渥美さんは日常を再現しながら、喜劇味があって面白い。
最初の共演の時は僕も新劇の芝居が抜けなかったんだろうね。渥美さんに『適度のセンスと理解力を持って、流れるように流れるように』と言われました。上手いサジェスチョンだった。当時はまだ新劇の演技しかできなくて、フィルムとか映像の演技を修業し直している時で、まさにそれを教えてもらいました。
芝居には流派があって、それがその場に嵌るかどうかなんだ。新劇の芝居をテレビに持っていっても嵌らない。新劇の演技派だとか自信もって新劇芝居しても、どうしても違ってしまう。映像としてのリアルは舞台とは違うから、渥美さんの言葉ですぐに反省できたんですよ。
ただ、基本の考え方として舞台経験は役に立ちます。戯曲を読み込んで、時間をかけて芝居を作るから、応用できる。でも、テレビに出る時はそこを忘れてやり直さないとね」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/横田紋子
※週刊ポスト2018年8月3日号