前田氏は父もマツダで長年デザイン部門のトップだった
──前田さんが考える競争優位なブランドとはどんなものでしょう。
前田:オンリーワンでないとブランドにはなり得ないじゃないですか。そのメーカーのブランドしか作れないものでなければ価値がない。いま、特にそう思っていますね。
商品に何かシンボルマークをつけておけばブランド、というのがかつての日本のブランド論でした。そうではなく、ブランドは作り手の志の集大成みたいなものなので、どれだけ研ぎ澄まされたものを積み上げてできているかにかかっていて、そこはデザインも一緒なんです。
一言で言えば、デザインで表現したいのは“オーラ”。パッと見た瞬間、みなさんに「オッ」って思ってもらえるもの、それがブランド表現だと思っています。
──クルマの躍動感や生命感、スピード感などを表現するために動物のチーターをモチーフにして、獲物に襲いかかるチーターの姿をシンプルにオブジェにした、“ご神体”がマツダにはあります。デザインで迷ったらご神体に立ち返るという、唯一絶対の存在になっているそうですね。
前田:自分たちの原点を突き詰めた時、動的な感じや生命感が感じられないクルマはマツダのクルマじゃないと結論づけました。いまでもその哲学は普遍だと思っていますが、敢えて、形に命を与えるという抽象表現にとどめたんです。
それまでのマツダは、デザインテーマを具体的に決めていました。こういうキャラクターラインを入れるとかデザイン表現を固定してしまうと、結局はものすごく浅いものになってしまい、クルマの価値が変わっていくと対応できなくなってしまうのです。
昔から、道具には命が宿ると言われていますが、我々がやっていることはそれと同じ。命を与えるということの深さに気づかされて、そこに日本の美意識の原点があるということにも気づきました。そして、生命感の深さをもう少し追い求めているのがいまのステージですね。
よく若い人たちのクルマ離れが叫ばれていますが、真にカッコいいクルマを見たことがなければ、誰だってクルマへの関心も興味も薄れるでしょう。
そこで我々が「RX-VISION」や「VISION COUPE」(それぞれ2015年、2017年に発表した「艶」と「凛」をテーマにした次世代デザインのコンセプトモデル)を東京モーターショーで見せると、若い人たちがどっと押し寄せて来て、誉め言葉である「やべえ」とか「やばくね、これ」とか言ってくれるわけです(笑い)。あれは心地よかったですね。