──そこを極めるために、クルマの塗料そのものまで共同開発してこだわっているそうですね。
前田:マツダのエンジニアたちも相当、意識風土が変わってきまして、彼らは自分たちもクリエーターの1人だと考えています。アーティストの1人だと本気で思ってくれるようになった。
僕が彼らに常に言っているのは、「色を塗料だと思わないでくれ」ということです。色は基本、我々が作り込んだクルマの形が映えるために絶対に必要なものなので、いわばフォルムそのものです。クルマの形に込めた思いやその良さが、もし色で消されてしまうのであれば、その塗料や色は失敗。
クルマの造形に込めた思いをさらに強調してくれる、もしくはすごく正確に表現する色を実現したいんです。だから色の設計は、相当精密にしてほしいというお願いを僕のほうからしています。
陰影の移ろいの表現を光でするということは、ペイントにかかる比重がものすごく大きい。光に反応するのが色なわけですから。ということで、エンジニアたちにも相当、緊張感をもってやってもらっていますが、「突き詰めていくとペイントのレベルでは開発できない」と言うので、金属メーカーと一緒に開発をやり始め、ナノサイズのメタルチップの領域まで入っていきました。
──そこまで車のカラーを突き詰めているのはすごいですね。
前田:結局、ペイントはクルマのボディのうえにミクロン単位で乗ってくるものなので、ものすごい薄い塗膜に深みを出して、しかも光に対して繊細な反応をしてほしい。深く見えて、しかもその反応が早いという、ものすごく難しいことをしているんです。
いままでのメタリックカラーのように、光が当たった瞬間にギラギラっとしてしまうと、もう形が分からないわけですよ。光が当たって明るく見せる反応も必要で、かつ、均一でフラット、きれいに光ることも条件。となると、光に反射する金属の部材は、お行儀よくきれいに並んでないとダメなんです。
──そこまでやるところって、国産メーカーはもちろんですが、海外の自動車メーカーでもあるのでしょうか。
前田:一部の本当にプレミアムな会社では、5層からなるファイブコートなどもありますね。何回も何回も塗り重ねていくということでは似た特性はありますが、そこまではともかく、我々はずっと、2コートとか3コートにこだわってやってきていますし、それを自動車工場で普通に塗り重ねていくマツダのような事例はほかにはないでしょう。それを次世代の魂動デザインで表現していく予定です。
■聞き手/河野圭祐(ジャーナリスト)
■撮影/内海裕之