ライフ

【著者に訊け】国境なき医師団の看護師が綴った奮闘の記録

『紛争地の看護師』を上梓した白川優子さん(撮影/黒石あみ)

【著者に訊け】白川優子さん/『紛争地の看護師』/小学館/1512円

【本の内容】
〈海の向こう側には、私たちが目を覆い、耳をふさぎたくなるような現実がある。国境なき医師団に参加し始めた2010年以来、戦争の被害によって命の危機にさらされている人々を、何度も目にしてきた〉(「はじめに」より)。本書には、白川さんが経験した紛争地の現実と、そこで生きる人たち、命を奪われた人たちの生活、そして寸暇を惜しんで治療にあたる医療者たちの姿がありありと描かれている。新聞やテレビではわからない戦争の悲劇がここにある。

 シリア、イラク、南スーダン。「国境なき医師団」の看護師として、白川さんがこの8年間に派遣された地域には、激しい内戦が続いている紛争地が多い。

「派遣地を自分で選ぶことはできません。手術室看護師の経験を積んだことで、結果的に手術が必要とされる紛争地に行くことがどうしても多くなりました」

 自分が目にした現実を、世の中に伝えたい。戦争を止めたい。強い思いを込めた初めての著書は、昨年12月に帰国した後、3か月ほどで一気に書きおろした。

「戦争が起きていることは報道で伝えられているし、何人亡くなったという数字も目にしますが、目の前で、何の罪もない人が爆撃されて血を流し、泣き叫んでいる。自分が目にした事実はものすごく重くて、現場で医療を提供するだけでなく、このことを証言しないと、と思いました」

「国境なき医師団」は、ジャーナリストや他のNGOが撤退する場所で医療の提供を続けることもある。シリアでは、武装したグループに宿舎に踏み込まれ、働いている医療施設が空爆を受けた。人を救うため、死と隣り合わせの戦地へ向かう娘を送り出す家族の思いや、恋人だった人との別れも本には描かれている。

 子供の頃から「国境なき医師団」に憧れていたが、実際にチャレンジを始めたのは30才を目前にしてから。オーストラリアに留学、英語を学んで現地の病院で経験を積んだ。白川さんの本を読んで、自分も同じ仕事に就きたい、と動かされる若い人もいるそうだ。

「今の日本は自己責任論ばかり言われますけど、若い人のチャレンジを応援するのも、支援のひとつの形だと思います」

 派遣を終えて帰国すると、戦地とのあまりの違いにとまどうことも多かったという。

「平和な東京の街を歩くと、『今、こういうことが世界で起きているのを知ってる?』という気持ちになりましたが、最近はこれも現実、あれも現実と受け入れられるようになりました。うまく切り替えないと業務に支障をきたすこともあるので。それにやっぱり、平和ってすばらしいこと。今は帰国を楽しみにしています」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2018年8月16日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
男が立てこもっていたアパート
《船橋立てこもり》「長い髪に無精ヒゲの男が…」事件現場アパートに住む住人が語った“緊迫の瞬間”「すぐ家から出て!」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン