週刊ビッグコミックスピリッツにて連載中の『ハスリンボーイ』より
「詐欺の話はよく聞きますが、俺は経験ないです。知り合いは郵送で買ったときに塩を送られたことがあると言っていましたけどね。あと、入金したけどものが送られてこないということもあると思います」
ダークウェブは海外の複数のサーバーを通すことで発信者の情報を隠すことができる。書き込みの時点では身元を探られることがないため、受け渡しの際に警察の内偵が入ってさえいなければ、売買を成功させることができる。
「ダークウェブはほぼ匿名で書き込み元を隠せますが、実際の受け渡しは今までのネット売買と同じで接点をもたなければいけないので、捕まるリスクはあると思います。捕まる時って、押しに大体内偵がついちゃってたとかなんで」
警察もダークウェブの存在を認識し、捜査を行なっているが、すべての売人に目を配れるわけではない。20年ほど前は渋谷のセンター街(現・バスケットボールストリート)にイラン人の売人が立ち、薬物を販売していたが、さすがに最近では路上で売買をすることはほとんど見られなくなった。売人たちはその活動場所を、リスクの高い路上からダークウェブへと変化させているのだ。
日本語の書き込みの並ぶダークウェブでは、違法薬物や盗難クレジットカード番号、コンピューターウイルスといった商品が目につくが、海外のダークウェブに飛べば、銃火器や毒物、はては殺人の請負などといったものまで見つけることができる。
ただし、それらの商品に興味を持ったとしても好奇心からアクセスすることは危険を伴う。サイトを覗くだけでウイルスに感染することもあるし、決済したとしても商品が届く保障はない。顔の見えない相手との取引など、そもそも正常なものであるはずがない。
また、今年2月に起きた仮想通貨交換業者コインチェックから580億円もの仮想通貨「NEM(ネム)」が流出した問題では、犯人側はダークウェブ上にサイトをつくり、ネムを相場より約2割安く、ビットコインなど他の通貨と交換を始めることで「資金洗浄」したという。
このような大がかりな犯罪組織も絡んでくるダークウェブに対して、犯罪の温床として世界の警察からも監視が強まっている。一般人が軽い気持ちで近づくと、とんでもないしっぺ返しを食らう可能性は高い。さわらぬ神に祟りなし、と言えるかもしれない。
【PROFILE】草下シンヤ/1978年、静岡県出身。豊富な人脈を活かした裏社会取材を得意とし、『実録ドラッグレポート』『裏のハローワーク』などの著作がある。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて『ハスリンボーイ』(原作担当/漫画・本田優貴氏)を連載中。第1話試し読み http://spi.tameshiyo.me/HUSTLINSPI01 Twitterアドレス https://twitter.com/kusakashinya