敷地内の山道を見事に完走(撮影/近藤篤)
数日後に迫ったサバイバルキャンプ(3泊4日で行い、チームで協力して、きりもみ式で火種を生み、焚火に育てる。火をおこせなかったらチーム全員食事抜きが掟)も、子供たちは連日、火おこしの練習を重ねていたし、少なくとも1チームは火をおこせないだろうが、最終的には何とかなると踏んでいた。
それよりも心配だったのは台風。実際に強風と雨で、キャンプ地への出発は1日遅れた。そして初日に火おこしに成功したチームはゼロ。全滅である。だが、全チームご飯抜きは想定外だったものの、まだ崎野さんに焦りはない。翌朝の頑張りを約束して、子供たちを就寝させた。
ところが、翌日も、翌々日も、キャンプから煙が上がることはなかった。前代未聞の全員5食抜きである。
しかも子供たちは、執念を見せるどころか、チームはバラバラ、やる気を喪失して、崎野さんの「バカヤロウ」にも反応しなくなっていった。子供たち同様、崎野さんも水と栄養補助ゼリーしか口にしていなかったが、子供たちと火おこしの手順をおさらいしつつ、心の片隅で「こんなのやってらんない!」と、反旗が翻ることを期待してもいた。
だが、子供たちはどんどん自分の殻にこもっていく。声にならないなら、文字で心に渦巻いているものを吐き出させよう…。崎野さんは、作文を命じた。
すると、「くやしい。手が痛い。でもどうしても火が付かない」「家に帰りたいけど、34万円を無駄にはできない」などの記述とともに、森の漆黒の闇に自分の心の“闇”を重ねるかのような自責の詩、チーム内での不和や孤立感を訴える痛切な言葉が、堰を切ったように溢れ出てきた。食べたいものだけを126品書き並べた子もいた。
◆17年目にして初めて掟を破ることを決意
崎野さんは一人ひとり、全員の前で作文を読み上げさせ、キャンプ始動から17年目にして初めて、火おこしなしで食事をさせることを決心した。五分がゆと梅干し、出発前に各自準備したみそ玉だった。
食後に再び火おこしに挑戦。チーム一丸となった“執念”が、3チームすべてに炎をもたらした。その夜は3泊分のおかずだった即席麺、缶詰、レトルトの牛丼などを放出、3日目にしてようやく、子供たちの歓喜と笑顔に包まれた。
「今の子供は個人プレーは得意だけど、チームプレーが苦手なんです。自分の思い通りにならない苛立ち、思いを伝えられないもどかしさ、傷つくことへの恐れ…。どう他人と折り合っていいかがわからない気がします。でも、極限状態で心をぶちまけてみたら、実はみんなも自分と同じ思いだったことがわかった。助け合える“仲間”がずっとそばにいたことにやっと気づいて、安心して心を開いたんじゃないかと思います」(崎野さん)
翌日の朝食まで火種を消さないよう、その夜はたき火を囲んでごろ寝。チームメートと交代で炎を見守った。