国内

北海道の酪農家にとって「電源喪失」がいかに大きかったか

停電しても搾乳は休めない(写真:アフロ)

 災害が相次ぐ。対岸の火事、というわけではない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が北海道の酪農家が陥った窮状についてレポートする。

 * * *
 北海道の生産者から「もう勘弁してくれ」という悲痛な声が聞こえてくる。6日未明に北海道を襲った最大震度7の「北海道胆振東部地震」の話である。2年前、2016年の8月末にも北海道は複数の台風に襲われ、”日本の食糧庫”とも言われる十勝地方が「土壌も含めた回復には5~10年以上かかる」と言われる大ダメージを受けた。

 今回の地震の被害も大きい。震度7の地震で大規模な土砂災害に見舞われた厚真町は被害額157億円超、震度6弱を観測した札幌市も被害額100億円。ともに被害の全容はまだ明らかではなく、他の地域も含めた暫定被害総額さえわからない。被害額はさらに膨らむ見込みだ。

 2年前の台風では十勝の畑作農家の被害が大きかったが、全道が停電となった今回の地震における被害は様相が少し違う。単純に「震源に近いから被害が大きい」という構図にはなっていないのだ。例えば酪農家ならば、被害の規模は電源の有無に左右される。

 酪農には電力が欠かせない。酪農家の生活サイクルは牛の生活に寄り添っているが、すべてにおいて電力が必要なのだ。まず必要なのがミルカーと呼ばれる搾乳機への電力供給。搾乳は通常、牛の乳房にミルカーのユニットを装着し、真空状態を作って吸引するように搾乳する。当然電力が必要となる。搾乳は朝と晩の1日2回。絞った牛乳をバルククーラーという冷却タンクを通して出荷するのだが、実は酪農家は、牛乳が出荷できる、できないに関わらず毎日搾乳しなければならない。

 牛は乳を搾らなければ、乳房炎という病気になってしまう。一度乳房炎にかかると治療して再び生乳を出荷できるようになるまで1週間~10日ほどかかる。治っても乳量が減るケースもある。だから酪農家は乳房炎を全力で回避するために、非常時でも搾乳だけは続ける。実は乳房炎になる前に乳を出なくさせる、強制乾乳法という乳を止める方法もあるが、その後の乳量に対する不安感などもあって、酪農家には浸透していない。酪農家は「とにかく搾るしかない」と考える。

 仮になんとか搾ることができたとする。実際、今回の地震直後も非常用電源を確保している酪農家は停電中も搾乳することができたし、急場を手搾りでしのいだ酪農家もいたという。電源のない酪農家各戸を地元農協の職員が非常用電源を持ってまわり、搾乳をサポートしたという話もある。

関連記事

トピックス

あごひげを生やしワイルドな姿の大野智
《近況スクープ》大野智、「両肩にタトゥー」の衝撃姿 嵐再始動への気運高まるなか、示した“アーティストの魂” 
女性セブン
OZworldの登場に若者が殺到した
《厳戒態勢の渋谷ハロウィン》「マジで両方揉まれました」と被害打ち明ける女性…「有名ラッパー」登場で一触即発の乱闘騒ぎも
NEWSポストセブン
天海のそばにはいつも家族の存在があった
《お兄様の妹に生まれてよかった》天海祐希、2才年上の最愛の兄との別れ 下町らしいチャキチャキした話し方やしぐさは「兄の影響なの」
女性セブン
川村
【北海道・男子大学生死亡】脚には「龍のタトゥーシール」…逮捕された川村葉音容疑者(20)の同級生が明かす「暴力的側面」と「恋愛への執着心」
NEWSポストセブン
満を持してアメリカへ(写真/共同通信社)
アメリカ進出のゆりやんレトリィバァ「渡辺直美超えの存在」へ 流暢な英語でボケ倒し、すでに「アメリカナイズされた笑い」への対応万全
週刊ポスト
ライブペインティングでは模様を切り抜いた型紙にスプレーを拭きかけられた佳子さま(2024年10月26日、佐賀県基山町。撮影/JMPA)
佳子さま、今年2回目の佐賀訪問でも弾けた“笑顔の交流” スプレーでのライブペインティングでは「わぁきれい!うまくできました!」 
女性セブン
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)、(右はインスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】逮捕された交際相手の八木原亜麻容疑者(20)が高校時代に起こしていたトラブル「友達の机を何かで『死ね』って削って…」 被害男性は中学時代の部活先輩
NEWSポストセブン
木曽路が“出禁”処分に(本人のXより)
《胸丸出しショット投稿で出禁処分》「許されることのない不適切な行為」しゃぶしゃぶチェーン店『木曽路』が投稿女性に「来店禁止通告」していた
NEWSポストセブン
東京・渋谷区にある超名門・慶應義塾幼稚舎
《独占スクープ》慶應幼稚舎に激震!現役児童の父が告白「現役教員らが絡んだ金とコネの入学ルート」、“お受験のフィクサー”に2000万円 
女性セブン
佳子さまの耳元で光る藍色のイヤリング
佳子さまが着用した2640円のイヤリングが驚愕の売れ行き「通常の50倍は売れています」 地方公務で地元の名産品を身につける心遣い
週刊ポスト
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)(インスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】 「不思議ちゃん」と「高校デビュー」傷害致死事件を首謀した2人の女子大生容疑者はアルバイト先が同じ 仲良く踊る動画もSNS投稿
NEWSポストセブン
いわゆる“ガチ恋”だったという千明博行容疑者(写真/時事通信フォト)
《18才ガールズバー店員刺殺》被害者父の悲しみ「娘の写真を一枚も持ってない。いま思い出せるのは最期の顔だけ…」 49才容疑者の同級生は「昔からちょっと危うい感じ」
女性セブン