音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、飄々とした柳家小せんと、引きの芸風の三遊亭天どんによる、肩に力の入らない2人の会についてお届けする。
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飄々とした語り口のサラリとした芸風で古典落語をゆるりと楽しませてくれる柳家小せん。斜に構えた「引き」の芸風でトボケた噺を聴かせてくれる三遊亭天どん。7月31日、この「肩に力の入らない」2人の会を観に神保町らくごカフェに行った。この会場では「らくごカフェに火曜会」という二ツ目の会が開かれているが、この日はそのOB会。小せんはこの9月で真打になって丸8年、天どんは丸5年だ。
まずは天どんが『鰻の幇間』。圓丈門下の天どんは新作派と見られがちだが、実は新作と古典ほぼ同じ数のネタを持っている。『鰻の幇間』は「いかに酷い鰻屋か」に力点を置く演者が多いが、天どんの場合、可笑しさの中心はむしろ一八(幇間)のキャラそのものにある。騙されたとわかった一八が店の酷さを糾弾する場面でも、店のダメさより、語尾が上がるアクセントで投げやりに応対する女中と一八との掛け合いのバカバカしさで笑わせる。
続いて高座に上がった小せんが演じたのは、井上新五郎正隆という落語作家の原作を小せんがアレンジした『御落胤』。江戸の長屋を舞台にした擬古典の新作で、小せんは6月にこの噺をネタ下ろししている。
『御落胤』は、大家の女房に頼まれてカラクリ仕掛けの隠し箱を開けた八五郎が「三つ葉葵の御紋」付きの短刀を発見する、という噺。短刀を持っている姿を目撃された八五郎が、大家の物であることをあえて隠し、自分が将軍の御落胤だと咄嗟に嘘をついたことで騒ぎが大きくなる。次々にいろんな人物が登場するワイワイガヤガヤの中で、暴走する糊屋の婆さんが印象的だ。