小せんの2席目は入船亭扇橋の十八番『茄子娘』。山寺の和尚が畑で丹精込めて栽培した茄子に「大きくなったら菜にしてやるぞ」と言ったのを「妻にしてやる」と誤解した茄子の精が美女となって現われ、一夜を共にして子供ができる、という民話のような噺で、小せんの語り口によく似合っている。不邪淫戒を破った身を恥じ修業の旅に出た和尚が5年後に戻って娘と出会う場面では、山間の情景が目に浮かぶ。
トリの天どんは『寝床』。「今日の私は芸人だ、ボエー」が口癖のヘンな旦那のどこか投げやりな感じが天どん本人に通じていて、そこがまた何とも可笑しい。この旦那がヘソを曲げ、とりなす番頭に「どうしても聴きたいのならお前が『ぜひお願いします』と言え」と意地悪な顔で強要、番頭が「心が折れる……」と苦悶する場面が傑作だ。
猛暑の中、「熱演しない」2人の組み合わせが爽やかな一夜だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年9月21・28日号